Voice 海へ広がるラグジュアリー戦略
  ~エクスプローラ ジャーニーの日本初寄港に寄せて~

ラグジュアリートラベルの領域において、静かではあるが確かな変化が進んでいる。MSCグループによるウルトララグジュアリーブランド「エクスプローラ ジャーニー」は、その変化を象徴する存在の一つと考えている。2023年の就航から日は浅いものの、その思想は従来のクルーズに対する認識を着実に書き換え始めている。

同ブランドが掲げる「洋上のラグジュアリーウェルネスリゾート」というコンセプトは、これまでのクルーズの枠組みとは一線を画す。移動手段としての船旅ではなく、海とともに過ごす滞在体験。華やかなエンターテインメントを主軸とせず、空間・時間・サービスの質に本質価値を置く設計は、むしろ高級リゾートホテルの延長線上に位置づける方が自然だろう。オールインクルーシブでありながら高い自由度を確保し、ゆとりと静けさを兼ね備えた体験は、成熟した顧客層に新たな選択肢を提示している。

日本市場においては、2024年の本格展開からまだ途上段階にあるものの、地中海を中心に展開してきたフライ&クルーズ商品の体験者評価を追い風に、認知と理解は着実に広がりつつある。とりわけ注目すべきは、従来の「定年後の楽しみ」といった枠を超え、現役世代にも受容が広がっている点である。

そして2027年秋、同ブランドにとって大きな転機となる日本初寄港が実現する。投入されるのは、2026年8月就航予定の最新客船「エクスプローラIII」。約7万トン、乗客約900名というラグジュアリー客船として最大級のスケールを誇り、ゆとりある空間と多様で充実した施設はブランドの方向性を体現している。船内では4か所のプール、9か所のダイニング、700㎡に渡るウェルネス施設、洋上の公式ロレックスブティックも揃うショッピング体験など、ラグジュアリー船としては出色の選択肢を提供する。

秋の行楽シーズンに始まり、冬の東南アジア周遊を経て、桜の季節からゴールデンウィークに至る日本周遊。この一連の運航計画は、日本市場との親和性が極めて高い構成となっている。特に、航空座席確保の負担なく海外旅行の高揚感を味わえる日本発着航路は、健康面や外部環境への懸念から海外旅行を見直し始めた層にとっても、有効な選択肢として提案が可能となる。

一方で、この展開は大きな機会であると同時に、いくつかの課題も浮き彫りにしている。円安を背景とした旺盛なインバウンド需要により、ラグジュアリーセグメントの供給は想定以上にタイトな状況にある。同クラス最大級の客船とはいえ客室数には限りがあり、早期確保の重要性は一層高まる。

加えて、日本市場特有の予約行動も見過ごせない。「直前予約志向」が依然として強い中、供給制約のある商品では、その行動が機会損失に直結する。旅行を「空いた時間で行くもの」から「行くために時間を設計するもの」へと再定義していくことが、旅行者のみならず市場全体にとって重要な転換点となる。

この変化を実需へとつなげるうえで、旅行会社の役割はこれまで以上に重要となる。単なる商品供給にとどまらず、顧客のライフスタイルに寄り添いながら、より早い段階での提案と意思決定を促していく。その積み重ねこそが、新たな市場形成を支える基盤となる。今回の取り組みにおいても、早期販売というハードルを共有しながら商品化に取り組むパートナー企業の存在価値は高く、この場を借りて改めて御礼申し上げたい。

さらに、外部環境も追い風となる兆しが感じられる。クルーズへの関心は専門媒体にとどまらず一般メディアにも広がり、新たな顧客層への接点が生まれている。エクスプローラIIIの就航に向けた露出強化と販売活動を有機的に連動させることで、認知と需要の双方を効果的に引き上げていきたい。

エクスプローラ ジャーニーが提示しているのは、単なるクルーズの進化ではない。ラグジュアリー旅行そのものの選択肢を拡張する存在である。とりわけ高級リゾート販売に強みを持つ旅行会社にとっては、既存顧客への提案の幅を広げる自然な延長線として位置づけられるだろう。

日本初寄港というこの上ない機会をいかに活用し、「海の上の高級リゾート」という価値を市場に浸透させていくか。その挑戦を通じて、これからのラグジュアリートラベル市場の新たな成長機会を、パートナー企業の皆様と共に切り拓いていきたい。
 

著者:森田 千里(株式会社MSCクルーズジャパン)

掲載日:2026年05月29日