Voice ウェルネスツーリズムが切り拓く日本観光の未来
  ―「Tranquil Wellness(静かなるウェルネス)」が解決する地域課題と次世代市場の創造―

現在、欧米を中心に爆発的な広がりを見せている「ウェルネスツーリズム」。Global Wellness Institute(GWI)の予測によれば、その市場規模は2022年の6,510億ドルから2027年には1.4兆ドルに達し、年平均成長率は16.6%という驚異的な数字を記録しています。この巨大な成長市場を前に、インバウンドスタートアップである我々は今、日本の地方が持つ真のポテンシャルを「Tranquil Wellness(静かなるウェルネス)」というコンセプトのもと、独自の視点で定義しようとしています。

日本の地方に眠る「世界基準」のウェルネス資源

我々がフィールドワークを通じて確信したのは、日本の地方にはZEN(禅)、森林浴、発酵食といった、世界中のリトリートリーダーが渇望するコンテンツが日常に溶け込んでいるという事実です。これらは単なる観光資源ではなく、その土地の歴史が育んできた文化と知恵の結晶にほかなりません。
しかし、海外の旅行会社やリトリートリーダーたちの本音を探ると、日本に対するウェルネス旅の認知は未だ十分とは言えないのが現状です。「東京・京都」の二辺倒から脱却し、地方へと誘うための「認知のギャップ」。ここを埋めることこそが、我々のような旅行業界のスタートアップが取り組むべき、最大のブルーオーシャンであると考えています。

ウェルネスツーリズムが解決する「二つの構造的課題」

地方におけるウェルネスの推進は、現代の日本観光が抱える深刻な課題に対する「特効薬」となり得ます。
まず一つ目は、オーバーツーリズムの解消と持続可能な地方創生です。
ウェルネス旅は、特定の有名観光地に集中する旅行者を、地方の静寂な環境へと分散させる力を持っています。また「長期滞在・高単価」の傾向が強く、季節性やイベント性に左右されにくいため、地域経済に一過性ではない持続可能な潤いをもたらします。
そして二つ目は、日本の若年層に向けた「新しい旅の形」の提唱です。
昨今、欧米のセレブリティやインフルエンサーの影響もあり、日本の若年層の間でも「地方」や「自然」、そして「マインドフルネス」への関心が急速に高まっています。デジタル疲れを感じる日常を離れ、地方の本質的な価値に触れる体験は、次世代にとっての「旅のスタンダード」となり、将来的な関係人口の創出にも寄与するはずです。
当社では、SNSにおいて「#坐禅界隈」や「#SBNR(Spiritual But Not Religious)」などのハッシュタグを交えた発信を行っていますが、これらは単なる経済活性化にとどまらず、現代の社会課題を解決する可能性を秘めています。だからこそ、我々もこの市場の今後の発展に強い手応えと期待を感じています。


戦略的ターゲット:20代・30代の働く女性が作る「新潮流」

我々が特に注目しているのは、従来の富裕層だけではありません。日々、ストレスフルな社会で奮闘する20代・30代の女性層です。彼女たちはトレンドへの感度が高く、圧倒的なSNS発信力を備えています。
地方の静寂の中で自分を見つめ直し、地産の発酵食品で体を整え、森林浴で五感を研ぎ澄ます――。こうした体験を、彼女たちが「自分への投資」として選ぶライフスタイルを確立したいと考えています。彼女たちが動くことで、ウェルネスツーリズムは一過性のブームを超え、日本の新たな文化として定着していくはずです。

「共同戦線」の提案:パイを取り合うのではなく、市場を広げる

1兆ドルを超える巨大市場を前に、国内の限られたパイを奪い合っている時間はありません。まずは日本全体が「世界を代表するウェルネス・デスティネーション」として認知されることが先決です。
知的好奇心を刺激するテーラーメイドの旅を、地域を越えて連携し作り上げる。受け入れ態勢の整備やプロモーションにおいて、競合の枠を超えた「共同戦線」を張る。それが結果として個々の事業者の利益、ひいては日本観光全体の底上げにつながると信じています。

結び:再び「ALL JAPAN」の旗を掲げて

私は1998年にエンタテインメント関連事業を立ち上げ、2023年に上場企業へ売却するまで、25年間にわたり東南アジアへのアウトバウンド(海外展開)の領域で挑戦を続けてきました。その際も、日本が持つコンテンツの力を結集させる「ALL JAPAN」という概念を掲げ、活動の指針としてまいりました。
2年前、新たにこのスタートアップを立ち上げ、今度はインバウンドという未知の領域に挑んでいます。完全なる異業種からの挑戦です。しかし、かつてエンタメで世界に挑んだ時と同じように、私は「ALL JAPAN」という言葉が持つ、個々の枠を超えた強靭な繋がりを信じています。
このウェルネスツーリズムという新しい旅の領域においても、業界の垣根を越え、日本が一つになって世界を癒やし、魅了する。そんな未来を、志を同じくする皆様と共に描いていきたいと考えています。

 

著者:原 浩平(株式会社シードコマースTOKYO)

掲載日:2026年05月19日