Voice 至福の一瞬
  昨今、国内の海産物の価格が高騰しているようだ。原因は気候変動(海水温の温暖化)に戦争、円安、漁獲量の減少など、さまざまな要素が重なっている。人気の高級魚となるとさらに価格が跳ね上がる。その代表的な魚として、のどぐろの名をよく聞く。私が子供の頃にはあまり高級魚ではなかった。魚屋ではアジやカレイと同じ金額で売られていた覚えもある。のどぐろをグーグルで調べると正式名称はアカムツ。スズキ目スズキ亜目ホタルジャコ科に属する暖海性魚類で別名がノドグロとある。

 実はこの高級魚が相模湾で釣れるのだという。同じムツでもシロムツやクロムツ(のどぐろより美味)は相模湾で釣り上げたことがあるが、まさか相模湾にいるとは知らなかった。釣り情報で詳細を調べたら生息する水深は200mから300mの深場を狙う必要があるとのこと。水深200m以上の深場は経験がなかっが、なかなか手に入らない魚を釣り上げるという欲望を抑えられず、仲間を誘って小型の仕立て船に乗りこんだ。

 スタート時は300m近いタナ(水深)を操るのは難しく四苦八苦したが、ようやく慣れてきた頃、キンメダイ、シロムツ、スミヤキ、オキギス等の深海魚が掛かってきた。その後2時間くらいたっただろうか、竿が一気に海面に引き込まれた。少し呼吸を置いて一気に合わせ電動リールにスイッチを入れる。糸切防止用のドラッグがギーギーと鳴り響き、竿はしなる。どのくらい時が過ぎたか、300m下から海面まで上がってきた獲物は赤い魚。まさかという期待と感動。それも尺越え級の一荷(2匹以上が同時に上がること)だった。

 心臓がバクバクするような興奮は、10年近く前にゴルフのショートホールでホールインワンした時以来。コロナ禍を乗り越え気分良く過ごしたいが、なかなかうまくいかないことばかりであっただけに、こんな感動をまた味わいたいと心底思った次第である。

 のどぐろはその夜、酒と共に私の胃袋に納まったのは言うまでもない。ちなみにこの魚はしゃぶしゃぶにして頂くのが一番美味しいと思う。

 写真は相模湾で釣り上げたのどぐろです。
 

著者:森谷 博(学校法人トラベルジャーナル学園)

掲載日:2024年08月21日