私は、旅行会社に26年勤めた後、脱サラ・起業し、主に宿泊施設のプロデュースをやっております。トラベル懇話会に入会させて頂き、まだ1年もたっておりませんので、どんなホテルを私が運営・支援しているのか、ご紹介させて頂きます。インバウンド向けのミニホテルや、一棟貸切リゾートなどを展開しているのですが、主にコンドミニアホテルという形態です。コンドミニアムというと、ハワイとかリゾート地にあるキッチン付きのサービスアパートメントを皆さんイメージされるでしょうか。当たらずも遠からず、であります。
通常のホテルの部屋と違い、広い居住スペースに、キッチンやリビング・ダイニング、洗濯機が完備され、快適に⾧期滞在できるホテルで、場所はリゾートに限らず都心でも展開しています。10名前後と定員人数が多く、同じ部屋に家族や友人同士がみんなで一緒に泊まれるのが最大のメリットで、フロントや食事などのサービスは省略している場合がほとんどです。
東京に家族旅行する際、どんなホテルに泊まりますか?特に都心部のホテルは、1人部屋と2人部屋が圧倒的に多く、3人、4人で1部屋に泊まれる部屋は極端に少ないのが変わらぬ現状です。私の住む横浜にある巨大な某ホテルは、35階建て・客室数2311室と日本最大級を誇りますが、うち2272室がシングルとツイン・ダブルなのです。つまり、家族4人とか友達5人などで宿泊する場合、2部屋とか3部屋が必要になり、ホテルは眠るだけの施設になってしまっています。
旅行ほど、家族や友人とその仲を深められる機会はないのに、実に惜しい、と思うのです。
温泉旅館に行くと、布団を並べて家族や友人4~5人で寝ますよね。枕は投げなくてもそれだけで楽しいし、お風呂あがりに部屋で飲むビールは格別です。レストランではなく、そのまま部屋でゆっくり家族だけで食事が出来る部屋食プランは人気で高価だったりします。温泉だけではなくて、東京や横浜に旅行に行った際も同様に、皆で一緒に泊まり、ダイニングテーブルで遅くまで語りあえる宿泊施設が欲しい、ないなら自分で作ってしまおう!という感じのビジネススタイルですが、これは、競合を避けて戦わずに商売をする上でも、とってもいいビジネスモデルとなりました。
旅館業における「旅館・ホテル営業」カテゴリーでは、ベッド(寝台)を作る場合、1部屋9㎡以上と定めがあります。だからビジネスホテルは10㎡前後が多いんですね。
では…ホテルオーナーになったと仮定して、100㎡のスペースがあれば、部屋はいくつ作りますか?最低9㎡なので最大で11部屋作れます。1部屋1万円なら11万円の売上となります。50㎡×2部屋で同じ売上にするには、1泊5.5万円にしないといけない、厳しいかな?100㎡×1部屋だと1泊11万円です!ハードル高そう…さぁどうでしょう。
結論からいうと、どちらも不可能ではありません。これは稼働率の問題と併せて年間ベースで計算しないといけませんが、需要と供給バランス、競争力、様々な要素を加味しながら、私は後者2つを選択し、55㎡×8部屋のコンドミニアムタイプのミニホテルや、87㎡×2部屋だけの小さなホテル、162㎡の一棟貸切ホテルなどをプロデュースしています。
殺到するインバウンドがこのビジネスモデルを支えてくれています。彼らが持ち歩く、小学生位ならまるまる入ってしまう巨大なスーツケースは、10㎡の狭い部屋では開けることさえままなりません。日本人のように1泊中心ならまだしも、4泊も5泊も、時に数週間も滞在する彼らには、キッチンも洗濯機もダイニングテーブルも必要なのです。
年明けの当施設の国別利用者状況をご紹介すると、東アジア39.6%、東南アジア19.3%、北米14.2%、ヨーロッパ9.1%、豪州9.0%で、日本はわずか7.1%です。1グループの平均人数が5.5名、平均宿泊日数は4.7泊です。家族や友人と一緒に、⾧く快適に過ごせる「コンドミニアムホテル」が選ばれているのです。
どうやって集客しているか、脱サラ起業した1人社⾧だと毎日のように尋ねられます。基本は、OTAと自社ホームページです。旅行会社への営業はやったことがありませんが、エージェントさんからもたまにご送客頂きます。
宿泊業は、物販等と比べると比較的、集客しやすいマーケットかもしれません。経営者の会などでECサイトで物販されている方の話を聞きますが、それはそれは壮絶な競争の中、血のにじむ努力を何年も何年もやってようやく売れるようになるか、いまだ売れないかの武勇伝ばかりです。
宿泊業も予約サイト中心で販売することは同じなのですが、供給側は物販サイトほどは多くはなく、民泊はありますが個人で誰でも参画できるものでもありません。不動産という特性上、それなりの資金と、ライセンスのある許認可制(民泊は届け出)の為、それなりの参入障壁があるからです。そして購入者はというと、日本人だけではなく、世界中ほとんどの国の方がターゲットになり、無限大の可能性を秘めています。常に数十か国のゲストを迎えているのは、前述した通りです。魅力ある施設になっているのが最低限の前提条件ですが、旅行会社26年のサラリーマン時代に揉むに揉まれた経験がとても役にたっているようです。苦労を重ね、新企画を盛り込んでようやく発表したツアー商品が、ほぼ同じ内容で1000円安く、あっけなく翌週に新聞広告で競合他社から販売されてしまう血みどろのレッドオーシャンを泳いできた身からすると、ホテル業は3~4年単位での計画が当たり前ですし、同ジャンルのコンドミニアムホテルも徐々に増えてきてはいてもすぐに倍になるということもありません。また、レビュー商売につき⾧く販売実績のある方が有利な側面もあり1年先の予約も取れるので明日が見えないこともなく、いろんな意味でまだブルーオーシャンと言ってもよく、視界良好で泳ぎやすいのかもしれませんね。
災害やパンデミックには弱いことを理解し、油断大敵と常に足元と将来を見続けられていれば、であることは言うまでもありませんが。
次の機会があれば、リゾート地でのヴィラ事業に関して書きたいと思います。
著者:松宮 英範(株式会社MATCH)
掲載日:2024年07月31日