Voice コロナと旅と日常
 ロシアがウクライナに侵攻し、尊い命が失われている。大国同士の意地が引き起こした惨劇と言えるだろうが、戦地となったウクライナ国民にとってはとてつもない悲劇であり、一刻も早い停戦と和平への移行を祈るばかりだ。
 固い話はさて置き、この2年間のコロナと旅と日常についての持論を徒然のままに書き綴ってみたい。
会社、業界にとっては本当に厳しい2020年.2021年であったが、よく今まで耐えてきたと、弊社を含めた会員各社の頑張りには敬服する。2年間を振り返り、少し視点を変え、新型コロナウイルスの公的な影響は差し引いて、私個人のニューノーマルな日常を考えてみた。
 なんともこの業界に入って約45年間、これまで経験したことがないような不思議な日常生活に身を置いていることに気がついた。最初はウイルスの正体も分からず、極力外に出ないようにしていたが、その後ウイルスの特性も解明され、政府主導の緊急事態宣言、蔓延防止等重点措置が各自治体で発令され続けるうちに、なんとか3密を避けてウイルスを気にせず日常を楽しむことができないかと考えた。その結果、なるべく人と接触しないよう愛車を駆って小さい旅を満喫することにした。休日になると朝、空を見上げ、天気が良いと即席の弁当、果物、コーヒーポットを積み込み、夫婦でゆったりと四季折々の自然と景観を楽しみに出かけた。高速道路はガラガラ、駐車場も空いている。いちご狩り、葡萄狩り、紅葉狩り、どこに行っても人が少なく、従業員のサービスはいきわたる。県外からの移動を自粛しましょう、という高速道路の看板を尻目に関東一円にどんどん出かけた。こんなに週末を利用し、出かけたことは今までなかったと思う。入社以来これまで一年の三分の一は海外、土日は旅行説明会、夜はいろいろな飲み会があり、これはこれで楽しかったが、家庭サービスはなかなかままならず、息子が2歳くらいの時には、海外添乗の合間に自宅に戻り、2~3日後にまた出かける際には、また来てね!と声をかけられ、苦笑した経験も懐かしい。その後、会社の経営に携わるようになってからも、海外へ出かけているグループから何時事故やクレイムの報告が来るかと、無事帰国するまで常に気を張っていた状況からの解放感も初めての経験だった。
 芭蕉の句に、「旅に病んで夢は枯れ野を駆け巡る」、というのがある。そもそも人間は旅無くしては生きられない、ましては旅の世界にどっぷり浸かった我々は家でじっとしているのには絶えられない人種だと再認識したのもこのコロナのおかげかも知れない。こう書くとなんともノーテンキな、と思われるかもしれないが、実際はこの2年間、皆様と同じように会社存続の為、痛みを伴う様々な施策を続けざるをえなかったのが現状だ。そのストレスからこのように公私を分けたことで気分転換にもなったと思う。残ってくれた社員とのコミュニケーションや顧客との繋がりを大切にしながら業務を続けているが、そんな中意外にも社内では笑いが絶えなかったのは、なんとかこの悪夢を明るく乗り切ろうとするみんなの気持ちの表れかも知れないと心強く感じた。
 私の故郷、薩摩の教えに「泣こかい、飛ぼかい、泣くよか、ひっ飛べ!」と言うのがある。どんなに厳しい局面に直面してもぐずぐず弱音を吐いて立ち止まるのではなく、勇気を出して前に進め、という意味だが、何とか早くコロナが収束し、動き出せるよう、業界全体で高く飛ぶ準備をしたいものである

著者:田中國智(株式会社ATI)

掲載日:2022年03月08日