Voice 「養生訓」
今から309年前(1713年)、まだ平均寿命が37.1歳の江戸時代に、83歳の時に書いた貝原益軒の「養生訓」は、今も現代語版や解説書が出版され、世代を超えて読み継がれています。
貝原益軒は寛永7(1630)年11月に福岡城下に生まれ、慶安元(1648)年に福岡藩主黒田忠之に仕え、2年後に退官しましたが、7年後藩医として黒田藩に復帰。その後、藩の内意による儒学修行のため、京都遊学をし、寛文5(1665)年に150石の藩の儒官となりました。士官後も医学、本草学(薬学)は言うまでもなく、地理学、歴史学も勉強しました。貝原益軒の主な著述は99部、251巻ほどあり、養生訓は正徳3(1713)年83歳の時の著述です。正徳4(1714)年8月27日84歳で逝去。

養生訓は8巻よりなり、第1巻・第2巻:「総論」、第3巻・第4巻:飲食、第5巻:5官、第6巻:慎病、第7巻:用薬、第8巻:養老について書かれています。その中からほんの一部だけ抜き出しました。

『人生百年』
 人の身は百年を以て期とす。上寿は百歳、中寿は八十歳、下寿は六十なり。六十以上は長生なり。世上の人を見るに、下寿を保つ人すくなく、五十以下短命なる人多し。人生七十古希まれなり、といへるは虚語にあらず。
長命なる人すくなし。短命なるは生まれつきにあらず。十人に九人は皆みずからそこなへるなり。人の命は我にあり、天にあらず。もとより天にうけて生まれつきたれども、養生よくすれば長し。養生せざれば短かし。

 養生の術は、先ず我が身をそこなう物を去るべし。身をそこなう物は、内慾と外邪となり。内慾とは、飲食の慾、好色の慾、眠の慾、言語をほしいままにするの慾と、喜・怒・憂・思・悲・恐・驚の七情を云う。外邪とは天の四気なり。風・寒・暑・湿を云。肉欲をこらえて、すくなくし、外邪をおそれてふせぐ。これを以て元気をそこなわず、病なくして天年を長くたもつべし。

 養生に志あらん人は、心につねに主あるべし。主あれば、思慮して是非を弁へ、忿をおさえ、慾を防ぎて、誤りすくなし。万の事、一時心に快き事は、必ず後に殃となる。酒食をほしいままにすれば快けれど、やがて病となる類なり。はじめにこらゆれば必ず後の喜びとなる。
 およそ人の病は、皆わが身の慾を恣にして、つつしまざるよりおこる。養生の士は常にこれを戒めすべし。
一時の慾をこらへずして病を生じ、百年の身をあやまる。愚かなるかな。長命を保ちて久しく安楽ならん事をねがわくば、慾をほしいままにすべからず。

『病は気から』
「怒れば気上る。喜べは気緩まる。悲しけば気消ゆ。恐るれば気めぐらず。寒ければ気とづ。暑ければ気泄る。驚けば気乱る。労すれば気へる。思へば気結る」といへり。百病は皆気より生ず。

『病は口から』
 人生日々に飲食せざる事なし。常につつしみて慾をこらへざれば、過ぎやすくして病を生ず。古人「禍は口よりいで、病は口より入る」といへり。口の出し入れ、常に慎むべし。

養生訓には「すべからず事」が、たくさん具体的に説明してあります。  一読の価値あり!

著者:須古 正恒(観光産業健康保険組合)

掲載日:2022年01月12日