Voice 「日本の経済を担う伸び代ある産業」 としての立ち位置
コロナ禍にあって、海外はもちろん、国内の出張旅行も控えておりましたが、7ヶ月ぶりに仕事で東京を離れました。目的地は長崎。
1571年にポルトガル船が日本に初来航し長崎港が開港して450年。その周年を記念する市主催のイベントに出展参加し、そして同時期に開催された開港5都市会議なるコンファレンスでの基調講演を依頼されたからです。開港5都市会議は、安政5年(1859年)に日米修好通商条約によって開港を指定された函館・新潟・横浜・神戸・長崎5都市の「景観街づくり」を目的に活動する市民グループが集い、それぞれの都市持ち回りで息長く毎年会合を開催しており、今年・27回目は長崎市での開催。各都市から多くの参加があり、魅力的な街づくりと国内外からの旅行者を誘致・ベストサービスを提供すべく熱心に活動の進捗報告・アイディア・意見の交換を行なっておりました。幸運にも二つのイベントで1週間を超える長崎滞在ができ、地元の方々や他の開港4都市の方々とも親しくお付き合いし、街のブランディングやツーリズムを熱く語り、たらふく腹を満たし、美酒の溺れた日々を過ごして帰ってきました。
先に挙げた長崎市主催のイベントは、市のメインストリートを市政初めて通行止めにしたイベントで、市民の誇りを醸成し、市の誇りでツーリズムを活性化させようと市中のあらゆる団体等が参加して創り上げた大催事で、市民が二日間にわたってコーラス、オペラ、ブラスバンド、ジャズバンド、踊り等々でステージに上がり、数多くの市町村の宣伝ブースや物販屋台が繰り出した盛大なものでした。
しかしながら、旅にまつわる両イベントにも関わらず、旅行会社の存在は皆無でした。会議の参加のみならず、そのお世話役も、イベント・オペレーションの手伝いにも全く姿が認識できませんでした。市内の視察旅行へのアシストにも参加していませんでした。私が関与するマカオ政府観光局でもポルトガル政府観光局と共同でセミナーを開催したのですが、旅行会社からの参加者は一桁で、多くは行政、市民団体、メディアからの参加者でした。
どうした事だろうか? 地元への密着度の希薄さは、イベント実行委員会立ち上げの段階から旅行会社・業界の存在が全く抜け落ちているほどなのです。ツーリズムのプレーヤーとしての認知度が全く低いのです。存在や役割は期待されていません。会議においても5都市の方々は口々に各地のいや日本のこれからの伸び代ある産業は観光だと声高く叫ぶのですが。
行政の方に旅行会社との関わりを尋ねると、地方創成事業の入札には本社の組織が応募の定席にあるというのですが。 昨今、地方創生事業にビジネス展開すると謳う旅行会社が多く見受けられるようになりましたが、地方の支店は地元と乖離した待受・受注型ビジネスに徹する存在で、「日本の経済を担う伸び代ある産業」の構成者である自覚は皆無だなと見受けられました。足が地につかない幽霊のような存在で地方創生ができるのか?日本の進むべき道を誤らせないか?赤黒い焦燥感が繰り返し込み上げてきます。
強烈な、急速なパラダイムシフトが進行しています。地方のレベルは致し方ないというなかれ。業界全体として意識変革に取り組まなければならないのではないでしょうか?

長崎ではコンファレンスが目白押しで開催され、修学旅行が街中を席巻、ホテルの予約を取るのに難儀する状況だったそうです。往復の飛行機は満席状態。人の動き・旅は足早に回復していると実感してきました。

著者:榊原史博(株式会社マイルポスト、マカオ政府観光局)

掲載日:2021年11月29日