Voice 様変わりした築地界隈
 私の会社のある築地界隈はコロナ禍でもっとも様変わりした地域の一つだろう。コロナ前は市場移転と東京オリンピックでインバウンド需要の一層の増加が見込まれ、江戸の香りと国際性が溶け合った観光地として大いに繁盛するはずだった。
 コロナ禍ですべてが変わった。路上から外国人すべてが姿を消したのは当然としても、五輪のインバウンド客をあてこんで次々建設された中小規模のホテルがオープン早々から閑古鳥のなく状態となった。会社のすぐ近くに建ったホテルは驚いたことにオープンしないまま、看板を下ろし閉鎖となった。
 残念なのは、インバウンド客だけでなく、日本人の客までが観光、ビジネスを問わず激減し、その結果、老舗の店が姿を消したことだ。この春には明治創業のパン屋の「築地木村屋」や100年以上続いた豆腐の「安達屋」が店じまいした。木村屋には時々ランチを買いに行っていたが、安達屋のほうは豆腐を買っても帰宅の際にそのまま電車に乗るわけにもいかず逡巡しているうちに一度も買わないまま閉店してしまった。
 飲食店の浮き沈みは輪をかけて激しい。古民家を改造した割烹で、ちょっとした接待などに使っていた店は、知らないうちに建物そのものが取り壊されて更地になっていた。同じ店舗がコロナ禍のうちに2度、3度と別な店に変わったところもある。
 日本のいたるところで似たような現象は起こっているのだろうが、築地は東京のなかでも古い町だけに、以前の風景が変わっていくのは残念でならない。
 もっとも希望がないわけではない。緊急事態宣言が解除されて2か月近くがたって、人気の途絶えていた店にもランチの行列が戻ってきた。築地界隈の店で個室を予約しようと思っても満室と断られることが多い。路地裏のようなところでひっそりとオープンしたレストランもちらほら見かける。
 旅行業界でも、私の会社に限らず、国内旅行は少しずつ受注が戻りつつある。ありがたいと思う。しかし、コロナ禍が本当に収束しても、築地界隈と同様に、業界の風景は以前とは様変わりなのだろう。変化に合わせなくてはと思う反面、しんどいなと感じる。

著者:坂元 隆(株式会社読売旅行) 

掲載日:2021年11月25日