Voice 地域と共に創る
当社では、テーマ型旅行を推進する上で地域の交流人口を拡大すべく、地域と連携したオリジナル商品の企画に注力してきました。
富山県越中八尾の例をご紹介しますと、越中八尾は急傾斜の石垣のうえに江戸の風情を残す家並みが碁盤状に残る静かな町です。人口2万人ほどのこの小さな町で、伝統の祭り『おわら風の盆』が開催される9月の3日間には、なんと20万人以上の観光客が押し寄せます。江戸時代から伝わる独特の優美な踊りが話題を呼び、いつしか全国からたくさんの人を集めるようになりました。当社でも早くからツアーを組み、この人気の祭りに毎年多くのツアー客をご案内してきましたが、元来が観光用ではなく地域のための祭りだったこと、町がせまく観光客の受け入れ体制も整いにくいことなどから、「人があふれて落ち着いて踊りが見られない」「もっとゆったり祭りを楽しみたい」という参加者の声も目立ち、オーバーツーリズムの状態となっていました。この課題を解決するために、「おわらを別の日にもう一度開催してもらえればお客様も落ち着いて踊りが見られ、町もさらに賑わうはず」という思いから、『おわら風の盆』の1ヶ月ほど後にほぼ同じ祭りが見られるオリジナル企画として『月見のおわら』というイベントをスタートしました。例年1万人弱が参加する企画ですが、ゆったり見られる上に踊りを体験できたりするのが好評で、20年以上続いている企画となりました。地域の皆様には食の出店などにご協力いただいていますが、今では町の方々のほうが前のめりな感じがするくらいです
最近の例では、2019年に松江の『ホーランエンヤ』を見に行くツアーを東京・名古屋・大阪発で売り出したところ、あっというまに完売した例があります。『ホーランエンヤ』は370年の歴史を有す松江城山稲荷神社式年神幸祭の通称で、10年に一度、約100隻の船が大橋川と意宇川を舞台に繰り広げる、全国最大級の船神事です。このような地元にもともとある祭や食を、地元の観光業者の方から教えてもらって、一緒に旅行商品を作っていくことも多くあります。お客さまが喜んでくれるかどうか、その視点を大事にお客さまとの出会いを喜び、真心をもって接することが、達成感につながるし、長続きすることにもなります。
 地域との交流をさらに発展させるため、今年4月に社内に専門部署『地域共創事業部』を立ち上げ、社員の地域出向も推進しています。地方自治体、DMO、DMCの皆様との関係強化をはかり、着地型の観光の開発などをお手伝いさせて頂くとともに、私達が勉強させて頂き、さまざまな地域の方々と共に新しい観光を創っていきたいと思っています。

著者:酒井博(クラブツーリズム株式会社)

掲載日:2021年11月10日