コロナ禍でとかく人様との関係が疎遠になりがちなこの一年、変わらぬお付き合いをしている仲間に「フィロソフィ経営実践塾」の塾生経営者の皆さんがいる。
京セラやKDDIを創業し、経営破たんした日本航空(JAL)の再建にもご尽力された稲盛和夫氏。その稲盛さんの経営を学ぶ勉強会「盛和塾」は、長年にわたり世界中で活動をしてきたが、2019年末をもって解散した。解散後の新たな自主勉強会として、横浜の旧盛和塾生が立ち上げたのが「フィロソフィ経営実践塾」 JAL破たん時、人事部長として稲盛さんから多くのご指導と薫陶を頂いた私も、塾生として末席を汚させて頂いている。
塾生の大半は、中小企業経営者や個人事業主であり、私のように大企業グループに属するメンバーはほとんどいない。また、業種も旅行とは無縁の建築、食品卸、パジャマ販売等々多岐にわたっており、視野を広げる上で大変勉強になる。「大企業病」におかされがちな我が身を振り返り、塾生仲間の言葉に「経営の原点と要諦」を見いだしている。互いに学びでは切磋琢磨しつつ、腹をわって経営者としての悩みも打ち明けられるし、なんと言っても、学びの基本軸を稲盛経営哲学においているため、議論がかみあい、知らない同士でもすぐに打ち解けられることが、何とも「心地よい」のである。
先日も、ZOOMによる塾生経営者の経営体験発表、そして(online飲み会形式での)意見交換会が行われた。発表した自治体の清掃事業を請け負う会社の二代目社長は、子供のころ実家の仕事が「汲み取り(し尿収集運搬)」だったことから、友達から「うんこや」と言ってからかわれたこと。それでも、父親とその仕事を誇りに思い、父親の後を継いで、環境保全事業として更なる自社の成長を目指しているとの言葉に、胸が熱くなった。私自身、群馬の貧しい八百屋の次男坊として生まれ、友達から「やおや」と蔑まれることも多かった。親の手伝いで白菜やキャベツを運ぶ姿をクラスメートに見られることは死ぬほど恥ずかしかった。それでも、汚れた前掛けをして懸命に働く父親のことが好きだった。体験発表を聞いていて、自らの少年時代を思い出すとともに、サラリーマン経営者の自分が、何故、個人事業主や中小企業経営者の集まりである経営塾に居心地の良さを感じるのかが分かった気がした。自分のキャリアの原点は零細事業にあること、そして自分の身体には同じDNAが流れているからなのだと改めて気づかせてもらった。
2010年2月、稲盛さんは会長としてJAL本社に出社した初日、大勢の幹部を前に強い口調で言った。「君たちがJALをつぶした」、「君たちには八百屋の経営もできない!」 と。
コロナ禍で厳しい経営に向き合わざるを得ない旅行会社の社長ではあるが、自分には商人のDNAが流れていると信じ、この逆境を乗り越えていこうと思う。八百屋の息子だった自分が「八百屋の経営もできない」と言われないよう。そして2年前に他界し天国にいる親父に恥ずかしくないように。
著者:江利川宗光(株式会社ジャルパック)
掲載日:2021年04月26日