Voice 旅行の値段が高すぎる?
物価高時代のレジャー事情について考えてみた。
数年前までは、3万円もあれば国内でちょっとした温泉旅行が楽しめた。格安航空を使えば、週末にふらっと北海道や九州に飛んで、地元のグルメを味わって帰ってくるなんてこともできた。しかし、最近はどうだろう。同じような旅をしようとすれば、交通費も宿泊費もすっかり様変わり。以前の倍近くかかることも珍しくない。

2020年代に入ってから、私たちの生活を取り巻く「値段」は確実に変化してきた。特に2022年頃からの急激な物価高は、あらゆる分野に影響を及ぼしている。食料品や電気代、ガソリンなどの日常的な支出はもちろんのこと、「旅行」というレジャー分野にもじわじわと、そして確実に波及している。

まず、大きな要因として円安がある。2022年以降、1ドル140円~150円台という水準が定着し、海外からの輸入コストが上昇した。航空燃料や部品、さらにはホテルで使われるアメニティ類まで、多くが輸入に頼っているため、円安は即、旅行代金に跳ね返る。

加えて、燃料サーチャージの高騰も無視できない。特に海外旅行では、航空券代に数万円単位の追加料金が課されることが当たり前になってきた。これにより、「安い時期を狙えば海外旅行も国内並み」というかつての感覚は、もはや通用しない。

国内旅行でさえ安心はできない。観光地の宿泊施設は、コロナ禍で打撃を受けた後、急激な需要回復に直面している。訪日外国人の増加や、各地で行われるイベント、紅葉や花見シーズンなどが重なれば、ホテルの価格は一気に跳ね上がる。さらに、従業員不足や物価高によって、宿泊施設側のコストも増加しており、それが料金に転嫁されているのが現状だ。

たとえば、京都で人気のある中堅ホテルは、かつて1泊1万円台で泊まれたものが、今では2万円を超えるのが当たり前。週末や連休ともなれば、3万円以上のプランしか残っていないことも多い。

さらに、交通機関の値上げも旅行代金に拍車をかけている。新幹線は2023年に料金改定が行われ、JR各社は「指定席料金」などの形で実質値上げを実施。また、地方路線の維持が困難になっている影響で、一部ではアクセス手段そのものが減少しており、選択肢が限られる分、旅費はさらに高くなっている。

もちろん、「旅行は贅沢品」と言われればそれまでだ。しかし、かつてのように「ちょっと頑張れば行ける」距離感で楽しめた旅行が、「計画的に貯金しないと難しいもの」になりつつあることに、少し寂しさを感じるのも事実だ。

このような状況を踏まえると、今後は「旅行の質」や「コストパフォーマンス」がより重要になるだろう。無理に遠くへ行くよりも、近場で非日常を味わえるスポットを開拓する。オフシーズンを狙って宿を安く抑える。移動は深夜バスやLCCを駆使する――そんな工夫が、これまで以上に旅行会社に求められる。

また、旅行そのものの意味を見つめ直す時期でもあるかもしれない。ただの「観光」ではなく、地元の文化や自然と深く触れ合う体験型の旅行や、ワーケーションのような「働きながら旅する」スタイルも、今後ますます注目されるだろう。

物価高は確かにやっかいだ。だが、それに適応し、工夫しながら旅を続けていく姿勢もまた、旅行会社に求められている力の一つなのかもしれない。財布のひもは締まりがちだが、それでも人は旅に出る。「日常からの脱出」は、いつの時代も必要な営みなのだから。


著者:早坂 賢一(株式会社プロコ・エアサービス)

掲載日:2025年10月07日