1990年代後半、ベトナムのサイゴンに住んでいてアクセスがよかったので、公私ともに頻繁に香港に行っていた。
香港に行くと、いつも映画の世界のように街がキラキラ輝いていた。九龍のたくさんのネオン看板は夜空を色鮮やかに染め、屋台からは湯気と香辛料の匂いが漂い、路地を歩くだけでわくわくしていた。
スターフェリーでビクトリアハーバーを眺め香港島へ渡ると、映画『恋する惑星』で見た景色そのままが広がり、映画に出てきたエスカレーターに乗って
劇中での警察663号(トニーレオン)のアパートを探した。
当時の香港は、私にとって映画と切っても切れない街だった。町を歩いているとポリスストーリーのジャッキー・チェンが高層ビルを飛び移り、狭い路地で悪人と戦っている光景が思い出され、街そのものが映画の舞台で、そのワンシーンの中を歩いているようだった。旺角のナイトマーケットでは最新映画のポスターが所狭しと貼られ、CDショップからは広東ポップが流れていた。茶餐廳でミルクティーを飲みながら、夕食は何を食べようか考えた。
1997年の返還を控え、一時街全体には独特の緊張感が漂っていたが、香港は香港、変わらないと思っていた。
そして現在、コロナ明けに久しぶりに訪れた香港は、以前より整然として落ち着いた印象を受けた。また、広東語にまじり北京語がよく聞こえてくる。
尖沙咀の海沿いは美しく整備されて、西九龍の開発が進む、美術館、戯曲センター等新しい施設が増えていた。
新しい香港もうれしい反面、かつて街を覆っていた無数のネオン看板は減り、旺角の露天市場は再開発で姿を変えていた。また、昔からある茶餐廳は少なくなり、代わりにスタイリッシュなカフェやミシュラン星付きレストランが並ぶ。ワゴン式の飲茶で「唔該!」と呼び掛けて蒸籠の點心を選べる店が減ってしまった。
夜景やビクトリアハーバーは洗練されていた。スターフェリーの香港島までの乗車時間が短く感じたが、実際埋め立てられたので近くなったとのこと。
そんな風に昔を懐かしんでいるときに、映画『九龍城寨之圍城 Twilight of the Warriors』が上映された。ルイス・クーやサモハン等懐かしい俳優たちが出演。ノスタルジックで昔を知る人たちにはもちろん刺さるでしょうが、若い世代にはエモいとのことで刺さっているらしい。渋谷には映画のコンセプトのカフェができて、香港には映画の世界観を再現した展覧会が、九龍城砦の跡地である九龍寨城公園で開催している。これには是非行こうと計画している。
思い出は映画や音楽にリンクして心に残ることが多い。
香港は子供のころから現在まで、家族や友人との色々な思い出があり、心に残る街でありこれからも通い続けたい街である。
現在の香港は洗練された国際都市であるが、どこかであの映画の一コマを探したくなる場所だ。
次に訪れるときも、私はきっとまた路地裏でブルースリーを探し、工事中の竹でできた足場から落ちてくるジャッキー・チェンを思い出しながら、街を歩くでしょう。
著者:西澤 順子(ワーフホテルズ株式会社)
掲載日:2025年09月26日