~人材確保に必要な視点と取り組み~
ここ数年、企業の雇用スタイルが大きく変わりつつあります。これまで主流だった「メンバーシップ型雇用」から、仕事内容や成果を軸にした「ジョブ型雇用」へと、移行が進んでいます。旅行業界においても同様の動きが感じられていらっしゃるかと思いますが、働き方の多様化やAIをはじめとする技術の進展により、「ジョブ型」だけでは対応しきれない現実が浮き彫りになりつつあります。
実際の採用現場では「思ったような人材が集まらない」「入社してすぐ辞めてしまう」といった課題がよく聞かれます。原因のひとつは、企業側が求める業務内容やスキルをうまく伝えられていなかったり、ジョブ型採用とうたいながら、実際はメンバーシップ型の働き方を期待していたりすることです。さらに、面接官ごとに評価基準がバラバラというケースも見られます。
こうしたミスマッチをなくすために、当社ではまず、業務内容や期待される成果を「見える化」することから始めています。たとえば営業部門では、「商談件数」や「提案書の作成数」「成約率」など、数値で測れるKPIを設定し、それに沿った職務内容や必要なスキルを明確にすることで、採用段階で認識のズレをなくし、お互いが納得できる関係づくりを目指しています。
また、人材育成の面でも、幅広い学びの機会を提供しています。海外研修、社外セミナーへの参加、資格取得の支援など、業務に直接関係しない分野も含めて、社員が新たな視点やスキルを得られる環境づくりに力を入れています。さらに、個々のスキルや得意分野を見える化し、成長やチャレンジをきちんと評価できる制度の整備も進めており、特定の部署や役職に偏らず、全社で公平な運用を目指しています。
社員一人ひとりが将来を描けるように、キャリアパスの明示や、それに必要なスキル・経験を具体的に示すことにも取り組んでいます。個人の目標と会社の方向性が重なれば、モチベーションも高まり、定着率の向上にもつながると思います。
報酬制度の見直しにも着手しています。ただ、年功序列や数値だけの評価から脱却し、仕事の難しさや成果に応じた報い方へ切り替えていくには、まだ少し時間がかかりそうです。給与水準の向上は業界全体の課題ですが、当社としては、日々の努力や成果がきちんと評価され、正しく報われる環境を大事にしていきたいと考えています。
人口減少が進み、若い世代の労働力不足が深刻になる中、旅行業界が「働きたい」と思ってもらえる業界であり続けるには、柔軟でオープンな企業文化と、社員が「成長できる」と感じられる環境が必要です。待遇の改善はもちろんですが、それに加えて「ここなら自分も成長できそう」と思えることが、採用や定着のカギになると私たちは考えています。
これからも「働きやすさ」「成長のチャンス」「納得できる評価」という3つの軸を大切にしながら、人材戦略を進めていきたいと思います。そして、微力ながら旅行業界全体の持続的な発展にも貢献してまいります。
著者:櫻井 隆文(株式会社ミキ・ツーリスト)
掲載日:2025年06月13日