旅行業界で仕事をして30数年。振り返ると、この業界から、また諸先輩からいろいろなご指導と体験の場を提供していただいてきたと思います。その中で印象に残っていることを少し共有させていただきます。
1990年代中旬にシカゴ観光局の仕事でシカゴを訪れました。時はMBAのシカゴ・ブルズ黄金期。同行していたメディアの人に頼まれ、ブルズのケビン・ハーター選手のインタビュー通訳として男子ロッカールームへ。もちろん、そこにはマイケル・ジョーダン選手やスコッティ・ピッペン選手、デニス・ロッドマン選手がいました。若かったというのとミーハーな性格ではないので、彼らに話しかけることはしませんでした。が、今から思うと勇気を出して話しかけ、サイン貰っとけば良かったと思います。
数年後の1990後半、英国政府観光庁に勤務していた頃、ウェールズ地方のカナーヴォン城でチャールズ国王(当時はチャールズ皇太子殿下)主催のパーティに招待されました。SPはいるものの、場内の芝生には孔雀が歩いていたり犬が走り回っていたり、のどかなガーデンパーティの程でした。「歌川広重の展覧会がロンドンである。彼は素晴らしいアーティストですね」とチャールズ国王が私に話しかけてくださいました。一般的な広重の情報しかない私は、「そうですね、日本が誇る浮世絵作家です」と答えるのがやっと(汗)。当時、故ダイアナ妃と別居中で、少し寂しそうな表情の殿下だったのが印象的でした。が、その1週間後カミラ夫人の存在が公になり、なんだかなと思ったのものでした(笑)。
またミレニアム直後にスコットランドのスクーン・パレスに行った時のこと。スコットランドの歴史においてスクーン・パレスはとても重要な宮殿で、世界遺産に指定されています。細かな歴史話は長くなるので今回は省きますが、この石は「運命の石(The Stone of Destiny)」や「戴冠石(The Coronation Stone)」とも呼ばれ、何世紀にもわたってスコットランド王の戴冠式に使われてきました。ご興味のある方は25anのこちらの記事をご覧ください。で、話の本題は石ではなく、そこで古くから使われているパイプオルガン。実は、高校生までパイプオルガンを習ってきて、一時はオルガン奏者を目指そうかと思っていたこともある私にとって、世界遺産のスクーン・パレスのパイプオルガン!!とアドレナリンが上昇。「私、パイプオルガンを習ってたのよ」って宮殿の管理人に言うと、「じゃあ、弾く?」とまるで自分の家のオルガンのように簡単に言ってくれました。これは一生に一度しかないであろう機会!と思い、お願いして、バッハの「小フーガト短調」を弾かせていただきましたが、これも一生に残る思い出となりました。
2010年代後半、南太平洋のニューカレドニアで3時間の乗馬体験をしました。乗馬に関しては20鞍以上は乗っておりますが、海を渡って無人島に行くのは初めての体験。海を渡りきり、マングローブの森を闊歩し、ビーチでピクニックランチを食べます。目の前の青い海とそよ風、横には大好きな馬、フランスのプチ豪華なピクニックランチ、こんな素敵な体験ができるなんて仕事冥利に尽きる体験でした。
そしてコロナ明けに訪れたサウジアラビアには、また違う別世界がありました。北西部にある奇岩と砂岩に囲まれた絶景の街、アルウラ。どういう風にこの地形が作られてきたのか全く想像がつきません。そして、風に侵食されて象の形になったエレファント・ロックでの星空カフェタイムは最高でした。旅の記録を映画作品として例えるなら、クライマックスの一場面でサムネイルに使いたいぐらいのシーンです。女性友達と来るもよし、パートナーと来るもよし、素敵な時間を共有できる相手と来たい場所です。
また東部ホフーフにある洞窟の山、アルカラ山。アンテロープ国立公園のように空から光が差し込む通路が洞窟内に整備されています。自然と自分との対峙のような清々しい気持ちをもってこの洞窟の山を楽しんできました。富士山の風穴と氷穴よりもはるかにスケールが大きく、東京ドーム30個分あり、ルブアルハリ砂漠へと繋がっています。通路が整備されているので年齢関係なく楽しむことができます。洞窟つながりでいうと、まだ行ってはないですが、紅海エリアに新しくできたデザート・ロック・リゾートという、岩山をくり抜いてホテルにしたサステナブルなリゾートが昨年12月にオープンしました。岩山に住んでいた先住民の歴史をモチーフにしたホテルで、いつかそこにも宿泊体験をしてみたいと思っています。
私の体験など、諸先輩型の体験には及びませんが、印象に残っている体験を書かせていただきました。海外旅行の楽しさや知らないよりは知ることの重要さ、ネットでは体験しきれない実体験を、海外旅行離れが多い今の若い世代に伝えるにはどうしたらいいのか、この歳になって思う今日この頃です。
著者:小早川 薫(サウジアラビア政府観光局)
掲載日:2025年04月08日