Voice メンバー全員が輝く組織を目指して
 先週の大統領選では、下馬評を覆す圧勝でトランプ大統領が返り咲きました。時間が経つ度に地滑り的な圧勝が明らかになり、あまりの予想外の結末に驚きました。
 トランプさんがなろうと、ハリスさんがなろうと、そこに至るまでの両者や支持者の間での議論には建設的なものがあまりなく、目に余る誹謗中傷合戦が繰り返され、今後のアメリカ社会はますます「深い分断の闇の歴史」に突入していくことを感じ、暗澹たる気持ちにならざるを得ないと感じました。
 一方で、トランプ大統領を好きか嫌いかは別にして、大統領・上院・下院・連邦最高裁を全て我が意で差配できると言っても過言ではない立場になったことも確かです。少数与党で殆どやりたいこともできない状態になった日本と違い、今後のトランプ政権は1期目とは比にならないくらいの独断専行になるのではないかと危惧しています。

 しかし、「決断」という意味では、独断専行の表裏として「極めて速く、強い意思決定」や「意見が2分される事案を一瞬で決めてしまう決断力」「それをサポートできる環境」は、企業を経営する立場としては、若干の羨望を禁じ得ないのが正直な気持ちです。
 それくらい、日本の企業では簡単に物事は進められない。意見が二分される事案に関しては「慎重な上に、更に慎重な対応」を重ねて、議論を積み上げていく傾向になることも確かです。合意形成し、対応策が出来た頃には「既に環境自体が変わり、対応策は意味を持たない」という笑い話もあるくらいです。
 これを、経営者として「一瞬で決めることができたら、どんなに楽であろう」と思うことは度々あります。巷に溢れる経営の書籍などを見ても、論理に基づいたスピーディーな意思決定は、今の経営の必須条件として喧伝されています。

 しかし、私はこんな時代だからこそ、企業の理念に基づいた「短期の数字よりも、長期にわたる成長と理念の実現」「皆がじっくりと膝詰めで話し合い、納得・腹落ちして進めること」「全員が他人事ではなく自分事として考える」等が、より重要になると考えています。
 企業が継続して長期的に成長し続けるためには、やはり組織の全員「進む方向性、なすべき事」を共有することが重要だと考えます。正直、とても時間のかかるしんどい作業で、今の風潮で言えば「時代遅れ」なのかもしれないとも感じます。
 しかし、「腹の底から納得して、自律した個々人」は、本当に強いと思います。少々のことでは挫けない胆力を持ち、理想に燃えて、必ず目的を成し遂げることができると信じています。そのような考えの下、企業理念をもとに、「1on1などの面談」「グループ討議」を繰り返し、じっくりと膝詰めで、経営方針の浸透や施策のアイデア出しを、日々進めています。

 ただ、どうしても対話をベースにじっくりと話し合って方針や施策を決める組織は、時には「なすべきことが明確でなく、フワッとしてしまう」「言いにくいことは、言わずにすませてしまう」等の弊害が出がちです。そこで、弊社では、少し前から物事を具体的に語る(徹底的な可視化・言語化・数値化・KPI化)を心掛けています。こうすることによって、事象の「解像度」が上がるとともに、争点が明確になり、違う意見の人も「感情的な対立」ではなく、「案の内容に関する建設的な意見交換」になっていきます。
 立場に関わらず皆が平等に、進むべき道を語り合い、アイデアをぶつけ合い、具体的なプランや施策をもとに、皆が泣いて、笑って、感動する会社を作っていきたいと思っています。まだまだ道半ばどころか緒についたばかりではありますが、トラベル懇話会のネットワークもフル活用して、会社の成長と働くメンバーの幸せに結び付けていきたいと思います。

 この秋の「大統領選による分断や、予測される独断専行」「衆院選による国内政治の閉塞感」を見て、少し暗い気持ちになりながらも、私たちの会社や組織では、なるべく気持ちを一つにできるよう、ますます「対話」を大事にしようと決意を新たにしました。


著者:飯沼 寿也(株式会社三越伊勢丹ニッコウトラベル)

掲載日:2024年11月13日