Voice 私の心のふるさと・香港
  かつて香港は自分を育ててくれた街で、もっと言うと、住んでみたいと思ったほど好きな街でした。旅行にかかわる仕事をしている皆さんも香港が原点だという方も多いのではないかと思います。今はその香港が微妙に雰囲気が変わっていることを感じます。

私が入社して初めての海外添乗を命じられたのが香港でした。それまで香港どころか海外に一度も出たことがないし、サブ添どころか一人で行け、とのことでどうしようかと焦っていたところ、当時のことですから先輩からは「行けばなんとかなる」の一言ですまされ、実際行ってみると、なんとかなる時代でした。以来、出張やプライベートで何度も訪れましたが、いろいろな面で刺激を受けてきました。

当時の香港は啓徳空港で、着陸時に街の中に突っ込んでいく感じがなんともいえず興奮したものです。そして街に出るとパワフルな市民に圧倒され、ずっと眺めていても飽きのこない風景でした。プライベートでは、現地の人から危ないよと言われていた九龍城砦をどうしても見たくて訪ねた時、その異様な光景に驚かされ、飛行機が屋根すれすれに着陸していくさまにぶっとびました。今は公園になってしまいましたが、本当にあのようなところがあったのか、まるで幻のような思いです。朝食は、多く出ていた屋台か、旺角のお店で「コンジー(お粥)」を食べていました。ピータンをベースで豚か鶏かよく迷いました。今は屋台のお店も減ってしまい、昔の風景からはすっかり変わっています。

また、食で欠かせないのは飲茶です。初めて飲茶に行ったときは、こういう食のスタイルがあるのかと衝撃を受けました。ワゴン式でいろいろな点心を楽しんだ時の感激は忘れられません。以降、アメリカやカナダの駐在時代もチャイナタウンの飲茶のお店に入り浸っておりました。カナダ駐在時代に友人になった香港からの移民の方と、休暇を合わせて香港に一緒に旅行したこともあり、日本人が知らないディープなところを案内してもらい、私はジャッキーチェンの映画が好きだったので、撮影されたロケ地を一緒にまわりました。(マカオも含めて)特に印象深いのは、ポリスストーリーでジャッキーが吹き抜けを飛び降りた「永安百貨」で上層階まであがると、この高さから演技とはいえ電飾をロープ代わりに飛び降りたジャッキーのすごさを感じることができる場所です。

いろいろ思い出はつきませんが、心に残っているのは一番最初の添乗で行った水上レストラン「JUMBO」です。本当の意味で私にとっての香港の原点かもしれません。味からするとまあまあといったところでしたが、船の中で麻雀をしている方や、モノを売っている方など、ここは何なんだと思った記憶があります。その後も香港仔(アバディーン)まで中環から路線バスで何度も行ってみました。何もなかった香港仔もいつのまにかずいぶんと発展していました。JUMBOは2020年3月に営業停止し、その後、曳航中に沈没したニュースを見て、ひとつの時代が終わったと感じたものです。

今の香港も十分に面白いし、新たな観光スポットも増え、みどころも多いですが、自由闊達だった時代と比べるとなんともいえぬ閉塞感を感じてしまうこの頃です。
リタイアした時には、のんびり1か月ぐらい自分の原点である香港に滞在して自分自身の旅行会社人生を振り返りたいと思います。

(写真はありし日のJUMBO・2019年撮影)
 

著者:瓜生 修一(近畿日本ツーリスト株式会社)

掲載日:2024年10月31日