Voice 日本における野球文化に関する考察
私がこれを書いている時はちょうど、NPBの日本シリーズとWBCワールドシリーズが開催されています。

特に今年は大谷選手と山本選手が所属するロサンゼルス・ドジャースがワールドシリーズに進出したことにより、連日あらゆるメディアで球場内外の様子が中継されています。大谷選手のブランド力はスポーツ以外のビジネスにも大きな影響を与えており、彼自身が広告塔としても大きな役割を果たしていますね。

日本に於いては、リーグ3位から日本シリーズ進出を決めた横浜ベイスターズと今期圧倒的な強さでリーグ優勝した福岡ダイエーホークスが拮抗した熱い試合を続けており、連日満員の球場は大いに盛り上がっています。

野球というゲームが面白いかどうかは人の趣向の問題だからさておくとして、このように一つのスポーツが国民を連日連夜熱狂させるというのはおそらく世界的に見ても稀なことだと思われます。

サッカーやアメリカンフットボールが欧米のファンを熱狂させると言っても、まさか日本のように高校生の全国大会に何万人もの人が球場に足を運び、国営テレビで毎日中継するという国は他にはないのではないでしょうか。それほど日本に於ける野球というのは普遍的なものであり、コンセンサスの場であると言えます。

野球というのは「間(ま)」のゲームだと私は思っています。
投手や捕手が打者と対峙する際、「何の球種を狙っているだろうか?」「どのような球を投げれば抑えられるだろうか?」と1球ごとに間があります。
それをファンは同時に楽しみ、テレビの前で一緒に考える事でソノゲームに参加しています。
「ここはスライダーだな」とか「落とした方がいいだろう(フォークボール)」等ビールを片手に、その間を楽しんでいるのです。
それはつまり、早く走る、遠くに飛ばす、強く投げるといったスポーツの原点に熱狂するのとは一線を画した独特の感じ方で、その間を共有する事がよほど日本人の感性に合うのでしょう。
おそらく、アメリカに於けるベースボールファンとは異なるものだと思われます。

また、日本の野球は文化や社会の一部として非常に重要な役割を果たしています。
多宗教国家と言われる日本ですが、高校野球に於いては、仏教高校もキリスト教高校も野球という共通の場で仲良く戦っています。また、今年の夏の甲子園の優勝校の校歌が韓国語だというので一部話題にはなりましたが、選手はもちろんファンにも排他的な感情を持つことはほぼ無かったのではないかと思われます。それほど日本の於けるコンセンサスの場である野球は(ファンかどうかは別にして)万人に受け入れられており、結果、この社会に於ける多様性やジェンダーレスにも一躍担っているのかもしれません。

日本の野球はアメリカから輸入されたものでありますが、今や長い歴史となりました。日本のスポーツというと柔道や相撲がありますが、それらをはるかにしのぐ人気を誇っています。国民的スポーツとの立場を確立し、贔屓の球団や選手の逸話がファンの心に深く根付いています。各チームは地域にも深く根ざしており、ファンは地元チームを応援することでアイデンティティを感じています。
一方で、少子化の影響、趣味趣向の多様化、若者のテレビ離れといった課題もありプレイヤー人口は減っており野球離れとも言われていますが、新しいファン層の獲得や地域密着型の活動の強化を図り、さらなるスター選手を輩出しながら日本の野球文化が今後も進化を続けていくことを願っています。

最後に、私はそこまで野球ファンではない事を付け加えさせていただきます。

著者:山本 康広(株式会社トラベルギャラリー) 

掲載日:2024年10月31日