Voice 勝負手土産
 旅行業に就いて30数年、美味しいものを頂く機会に多々恵まれました。しかしながら、添乗や出張で食べても「味がわからない」。勿論、相当美味しいのですが、堪能する余裕がありませんでした。20代の頃、企業のお客様ご招待ツアーの下見(試食)を、クライアントと一緒にする機会が多かったのですが、「家族と食べたらどんなに美味しいことか」と考えながら行程を無事に消化する事のみに執着し、後日、稀にですが家族と同じものを食べる機会があると、「こんなにも美味しかったのか」と記憶を辿る経験を何度もしました。

 今ほど個人情報管理が厳格ではなかった90年代前半は、今より多くの地域の宿泊施設や観光事業者の皆さんが、オフィスにお越し頂き、その際には地域の美味しいお土産(特にお菓子)を頂くことが多かったです。ちなみに、そうしたお土産を「おもたせ」と言いますが、この言葉は、お土産をもってきてくださった方に敬意を込めた、その土産物をさす敬語で、持参する側が「おもたせ」と呼ぶのは誤った使い方だそうです。そんなお土産を頂いた時には、その場で開けて残業中の仲間と分け合い、一口で食べていましたが、時々家に持ち帰って食べるとやっぱり相当おいしいものばかり。地域で観光産業に携わっている方は、流石地元の美味しいものをよくご存じだと感心したものでした。

 そんな経験もあり、「おもたせ」ならぬ「手土産」は、今でもこだわりを持って選んでいます。そんな私の大好物でもあり、勝負手土産は、今ではすっかり有名になった『東京三大どらやき』です。上野「うさぎや」、浅草「亀十」、東十条「黒松本舗草月」が、誰がつけたかは不明ですが、『東京三大どらやき』と呼ばれる逸品です。

 上野「うさぎや」さん(うさぎやサイト)(@240)は、上野広小路交差点から秋葉原方面へ徒歩数分の所にあり、私の最初の職場が上野だった事もあり、「うさぎやのどら焼き」が有名なのは30年前からよく知っていました。今でも食べると懐かしい“あの頃”を思い出します。

 浅草「亀十」さん(食べログサイト)は、なんてたってどら焼きの王様、貫禄の@390です。白あんと黒あん(あずき)があり、他より皮が一回り大きいのが特徴です。土日にしか行った事がありませんが、いつも行列です。店員さんの誘導も手際よく、混むのに慣れているな」と感心させられます。そんな商売がうらやましいと思う事も多々ありです。

 東十条の「黒松本舗草月」さん(草月サイト)の「黒松」は、どら焼きに「黒松」という商品名がついており、これは原料に使う「黒砂糖とはちみつ」が由来だと聞いた事があります。皮がフワフワで、ドラえもんに出てくる“普通”のどら焼きとは見た目も、皮の柔らかさも違っていて、とにかく美味しく、今時、驚きの@162です。以前、ハワイのお客様にプレゼントした時、一個1ドルだと言ったら、「Unbelievable!」と驚かれました。確かに安い。

 どら焼きの”でき”を大きく左右する餡の味は、材料となる小豆がもつポリフェノールとタンニンのバランスによって異なるそうです。ポリフェノールとタンニンはそれだけでは渋く、砂糖と合わさることで旨味がかわりますが、この作業工程(渋切行程)こそ和菓子屋さんの腕の見せ所となります。また、使用する砂糖の種類や、小豆の生育環境によりポリフェノールとタンニンの含有量もかわるため、材料選びも大事なポイントとなり、小豆と砂糖だけのシンプルな材料でできていますが和菓子屋さんの技術力により、味が大きくかわるとの事です。

 一度ある事業者の方との会食時に、「会社の皆さんで」とあわせて「こちらはご自宅で」と二箱プレゼントをしたら、翌朝『今朝、どら焼きをみて妻がよろんこんでいます』とLINEを頂きました。そんな時は、手土産にこだわりを持つ身として、「今回は勝った!」と勝手に喜んでいます。

 以前は検索をしても個人のブログが多かった様に思いますが、今では多くの紹介ページが検索結果にでるようになりました。東京生まれ東京育ちの身としては、すっかり有名になった三大どら焼きも引き続き応援はしていますが、若干天邪鬼な性格もあり、自分へのご褒美や親しい仲間へのお土産と言われれば、姫路の『御座候』!(御座候サイト)が今のお勧めです。どら焼きではありませんが、最強のコストパフォーマンス、@110。勿論東京でも購入可能です。機会があればぜひご賞味ください。

著者:山田 仁二(株式会社JTB)

掲載日:2024年10月23日