Voice 今と今後のアウトバウンド
コロナ前と比べると現状のアウトバウンドビジネスには様々な変化がみられています。 
今回頂いた機会を通していくつかのキーポイントをまとめてみたいと思い筆をとりました。

ご存じのように円安の影響は、我々日本の旅行業界、特にアウトバウンドにはとても大きなマイナス因子として海旅復活の足かせになっています。 
しかしながら日本に運航されておられる外資系航空会社にはネガティブな影響は少なく、日本へのインバウンドの需要の恩恵を得ておられる会社が多いと思います。もちろんインバウンドの少ない航空会社は例外です。それらの会社は引継ぎ日本マーケットへの期待値が高く、日本からの旅行者が増えることを願って日々活動されておられます。 
一方海外のホテルは日本以外からの需要が強く、日本からの需要を今の状況下で積極的に取り込みたいというホテルはひょっとすると多くないのかもしれません。 
その傍らで最近目にする大きな課題は人手不足ではないでしょうか。旅行会社の人材募集広告を多数目にします。人材が宝ともいえるこの業界でこの状態は非常に厳しい環境です。
航空会社も同様です。定期便運航には日系・外資系共に基本グランドハンドリング会社に日々の業務をお願いされていますが、そこでの人手不足で復便が遅れたり、早期復便を断念せざるをえないケースもあったようです。私が前に勤めていた航空会社では復便のタイミングにハンドリング会社の人員補填、および教育が間に合わず、復便の初便から3か月ほど自社内の他国の職員が出張ベースで来日し、毎日チェックインを行ったケースもあったくらいです。このような強引なやり方をする会社は稀だとは思いますが、日本の空港のチェックインカウンターで日本人のお客様が英語でチェックインするという、めったに見ない状況になっておりました。
海外のホテルでも清掃従事者などのエッセンシャルワーカーが足りていない地域も散見され、空室があっても十分な予約数が受けられないホテルもあるとお聞きしました。先日のパリオリンピックでも選手村での室内清掃は人員不足だったという記事も目にしました。
 
さて、視点を変えて航空運賃の話をさせてください。コロナ後は以前より随分と値上がりしたと皆さん感じておられると思います。では何故そこまで値上がりしたのでしょうか?
私個人の経験を基に考えると、理由は主に2つあると思います。
まず一つ目に重要なのは航空座席の供給数(キャパシティ)です。理由は様々ですが、コロナ中に古い飛行機を多く退役させた会社、コロナ後の需要を取り込むために新規機材購入等の機材プランはできていたが世界の航空需要の戻りは早く復便数を十分に確保できなかった会社、コロナ中の人員整理でパイロット数が十分確保できなかった会社など、いろいろです。
ある大手航空会社の重職の方は復便や増便計画がプラン通りになるのは早くても2025年だと2022年の段階でおっしゃっておられました。事業規模が大きく小回りの利かない航空会社の難が見えてきます。
その環境の中、十分とは言えない航空座席数の便をいかに効率よく販売するかを考える各航空会社のレベニューマネージメントは1席の単価を上げるという策を採用したのは、ごく自然な行動だと思います。 
通常は値上げしても需要と供給のバランスと競争の原理が梃となって働き、極端な値上げはないのですが、今回は値上げしても売れてしまうという状況が続いてしまいました。
また、その中で円安を伴って人気に拍車をかけた日本への旅行(インバウンド)の外国のお客様は、通常多くの日本人が海外航空便を予約するより随分と早いタイミングで便を予約購入されており、そうなると日本人旅行者が通常航空便を予約する30日から60日前には安い低いクラスの料金は空席が無く、結果、値上がった料金が多くみられるようになってしまいます。 
また、二つ目のポイントは、航空会社の中には販売される通貨価値を座席の空席状況表示に反映させている会社がございます。 そのために同じクラスでも円安または円高によって日本マーケットに開示される各クラスの販売量に差が発生し、円安時に低いクラスの供給量が日本側に少なく、円高時と比較すると高い料金になってしまうという現象になります。
勿論インバウンドが少なく、日本からのアウトバウンドに多く期待されている航空便はその影響も限定的にはなりますので、あくまでもこれらの現象はインバウンドが多い地域から飛来する航空便に多く見られるという事です。 
では今後はどうでしょうか。 
航空便数は増加傾向です。勿論2国間協定内の許された便数で頭打ちですが。 それに加えて航空会社同士の競争もあり価格は一定程度、落ち着くと予測されます。 それでもデスティネーションである各国の物価も上昇しており、皆様もお考えのように総じて海外旅行の価格がコロナ前に戻る事は難しいと考えます。 
その中で数社の旅行会社の方とお話ししたところ、利益は以前より取れているというお話も伺いました。今の海外旅行はより高価なものとなってしまいましたが、マーケットの変化と価格の変化を理解(対応)していただいているお客様も徐々に増える傾向ではないかとのことでした。 勿論、方面や旅行目的によってお客様の考え方もマチマチだとは思いますが、日本人の多くが海外旅行をしたいと思う願望やそれを求める購買力が今以上に向上する事を願ってやみません。
その中で最近の海外のデスティネーションを取り扱ってくれているメディア各社やSNSは強い味方で、それを頑張ってプロモーションされておられる各国観光局、大手旅行会社様のCMや露出のご努力にも頭が下がる思いです。 
今後は今以上に日本のお客様が旅行会社を使って海外旅行をしていただけるような機運が上がるよう、各社がそれぞれ可能な範疇で尽力することが重要なのだと感じます。
政情の不安や地政学リスクも心配ではありますが、それらに負けず業界一体となって前進できれば良いなと、心から思います。 
昨年より今年、今年より来年、来年よりその後がアウトバウンドが改善してゆく要素は多くあると信じております。 今後、海外旅行に従事されておられる皆様の会社が、そして業界全体がこれまで以上に良い成果が得られますよう切に願っております。

著者:宮本 慎二(株式会社クロノス・インターナショナル)

掲載日:2024年09月04日