Voice 熱い夜
 前回のVOICE投稿から2年、事務局からのご連絡を頂き2回目の題材を考えてみました。題材にあれこれと思うところはありましたが、4年に一度の興奮や感動は熱が冷めると忘れてしまうので、生々しく残る「書くなら今でしょ!」と思い、毎晩冷房の効いた涼しい部屋で眠気と闘いながらテレビで見るパリオリンピックの記憶を少しだけ記しておこうと思います。

 例年よりも2週間ほど遅い梅雨明けから猛暑日が連日続き、睡眠をとることが何よりも大事なこの時に、7時間の時差があるパリの競技時間に合わせたLIVE放送にTEAM JAPANが活躍すればするほど寝不足を強いられています。昨今のオリンピックは開催各国が競って新しい取り組みで、見ている私たちを驚かしてくれます。今大会では開会式がスタジアムや競技場を離れ、伝統、文化、芸術を感じさせるパリの街を開会式会場として執り行われ、宙に浮かぶ気球の聖火台など過去にない発想の演出には、またしても驚かされました。入場者数はスタジアム型であれば6~8万人、セーヌ川沿いの警備体制の課題もあり半減したといわれるパリオリンピックの観客数は、チケット購入者10万人とチケットを持たずに訪れる22万人を合わせ、スタジアム開催の4倍ともいえる約30万人。会場の各所で見ている観客は全体演出の素晴らしさを果たして堪能できたのだろうかと思うものの、より多くの方が参加交流できる、開かれた開会式となったことは「平和の祭典」であるオリンピックの意義が映されたものになったのではないかと思います。

 そして日本選手団の変化としてユニフォームを見て気づいたことは、背中の国名の表記が従来の「JAPAN」ではなく、「TEAM JAPAN」であること。各競技では日本代表チームを「なでしこジャパン」「侍ジャパン」、古くはスキージャンプの「日の丸飛行隊」など、愛称として呼ぶことは数多くありますが、オリンピックで国名を表すユニフォームにTEAMがついている。改めてほかの国のユニフォームに目を移してもどこにも見当たらない。日本選手・スタッフが個人ではなく全員が団結して、このパリ大会に臨んでいる意思表示のように感じられます。水泳競技や卓球競技の選手達をはじめとして、「TEAMで掴んだメダルです」「TEAMJAPANの結束が強い」などインタビューなどで耳にする機会は多く、愛称としての定着感はありましたが、代表のユニフォームがこの言葉で統一されるとは思いませんでした。「和」を尊ぶ日本人として選手団全員にエールを強く送る気持ちになり好感が持てます。

 さて、開会式翌日から競技(サッカーなど日程の関係で事前スタートもありました)が始まり、当たり前のように会場を埋め尽くす観客の光景と声援にまず感動です。4年間の思いを込めて、この瞬間のために多くを捧げ、自分を磨いてきた選手の一挙手、一投足に満場の観客は歓声や喝采、時にはため息が漏れ、競技会場が選手と一体化している。力いっぱい国旗を振りながらの声援や会場全体が一体化したウェーブ応援までも自分の力に変えて試合に臨む選手。「やっぱり、これがオリンピックだな」と感じます。

 コロナ禍のもと開催した前回大会東京2020がどれだけ異常な環境であったか思い出さずにはいられません。東京2020オリンピックでは何かに携わりたいと思い、会場整理スタッフの経験をさせていただきました。無観客の表彰式を終え帰路に就くカナダのメダリストが、私たちスタッフに嬉しさを伝えるように触れられるところまで近寄って、メダルを私たちに見せてくれたが事が忘れられません。数少ないスタッフで精一杯の拍手と歓声で応えたことをあのメダリストは記憶として残っているのでしょうか。


 このパリ大会も毎日のように名シーンが生まれ、その瞬間の興奮の渦に一喜一憂してきました。眠い目をこすりながらテレビを着けたその瞬間に映し出されるアスリートは、頂点を目指し、そのために多くを捧げ、多くの人の力を借りて自分を磨いてきた。だからこそ私たちは感動と興奮を感じている。その中でも胸に残るのは、試合を終えたばかりに息を切らせながら、インタビューに答える選手たちの言葉です。短いインタビューに気持ちを整理して真摯に答える言葉には、勝った時も負けた時も、結果をはるかに超えるアスリートの心の道のりが感じられます。その言葉からは苦境や困難に立ち向かう勇気が伝わってきます。その勇気を頂くたびに「よーし、私も何か頑張るぞ」と安易に決意をしてしまいますが、現実はいつまでも何も踏み出せていないことの幻滅を積み重ねています。
 もう少しの間、そんな涼しい部屋の熱い夜が続きそうです。これからもオリンピアンの皆さんの健闘をお祈りします


・自分もいつか言ってみたい オリンピックで生まれた言葉

「初めて自分で自分を褒めたいと思います」    アトランタ    マラソン 有森裕子さん
「康介さんを手ぶらで返すわけにはいかない」   ロンドン     水泳   松田丈志さん
「今まで生きてきた中で一番幸せです」      バルセロナ    水泳   岩崎恭子さん

著者:松本 光俊(ビッグホリデー株式会社)

掲載日:2024年08月14日