初めてトラベル懇話会の投稿依頼を頂いた。
何を書こうかと迷ったけれど、今回は私の忘れられないフライトの思い出について披露したい。
いつも御守りのように財布のなかに入れている、一枚の航空券の半券がある。
そのチケットには2015年11月9日、日本航空26便香港発羽田行、座席は 56Jとある。
この前日、私は香港スタジアムで2016年の夏季オリンピックリオ大会のラグビー最終予選を観戦していた。
2015年、TVでラグビーワールドカップを観戦した。日本人でラグビーに少しでも関わった人なら、これほど歴史的なことはなかっただろう。
そうジャイアントキリングをやってのけた。しかも聖地イングランドで。
恥ずかしながら、私はその頃、ラグビーについて詳しくはなかった。
それでも、その熱気を少しでも感じようと、その後に香港で行われたリオオリンピックの最終予選へと応援に出かけた。
香港では確かにラグビーのオリンピック予選が開催されていることを示す広告などがあるものの、あのTVで見たワールドカップの熱狂とは異なり、
何だか熱気が感じられない。そう思いながら、会場へと向かった。
会場に到着すると既に日本代表がウォーミングアップを始めていた。
しかしなんとなく違和感を感じる。
スタジアムを見渡しても立派なスタジアムだし、多くはないものの観客もそれなりに入って、オリンピック最終予選という国際大会の雰囲気を
醸し出している。何が違和感のもとなのだろう…。
ん、明らかに選手の数が少ない。フィフティーン、ではない。
このとき、7人制ラグビーがオリンピックの正式競技であり、セブンスと呼ばれている、特にここ香港では「香港セブンス」といって伝統的に
有名な競技であることをはじめて知った。
尚、このとき日本代表は男女ともに見事、最終予選に勝利し、男子はリオ大会でも堂々4位入賞を果たしたことは皆さんご存じのとおりである。
予選の翌日、香港空港のカウンターでチェックインする際にアップグレードを勧められた。
そのとき、後ろのほうで何人かの日本代表のポロシャツを着た男子チームの姿を見た。
ひょっとして同じフライト?と思い、それとなく空港職員に尋ねたところ、そうだと言う。
彼らはエコノミー?そう聞くと彼は黙って頷いた。
ならば、もしかしたら近くで見えるかも、そんな野次馬根性でアップグレードは断り、予約していたままの座席で機内に乗り込んだ。
妻と二人、窓側3列の座席に着席してほどなく、あの男子の日本代表チームが乗り込んできた。やっぱり…、そう思ったとき、我々をぐるりと
取り囲むように日本代表チームが着席した。
私の隣には、その後15人制の日本代表でも活躍したニュージーランド出身の選手が座った。
このあとの日本までのフライトは夢のようだった。
皆優しい好青年であり、大きな体躯を窮屈そうに折り曲げてエコノミーシートに座り、「あなた背番号は何番?」と無邪気に聞く妻にも
優しくラグビーの面白さを説明してくれた。また当時、妻が使っていたピンク色の小さなモレスキンの手帳には、彼らのサインがある。
私の隣にいた選手にサインをお願いすると、回せる範囲でみんなのサインをもらってくれた。
私はといえばラグビーの魅力を熱く語る彼らとともに、誘われるまま機内にあったビールを一緒に飲み干してしまった。
これが私の忘れられないフライトであり、心優しきラガー達との出会いだった。
著者:寺坂 真明(AWPジャパン株式会社)
掲載日:2024年05月22日