Voice 単身赴任生活の日々
 少し前から「VOICE」2度目の投稿順が回ってきた暁には、とにかく何か仕事には関係の無い事について書かせて頂こうと勝手に考えていた。ただ、何となくではあるが。
しかしながら実際にその時がやって来た今、「はて、仕事に関係無い事とは?」と自問してみると、改めて仕事以外の持ちネタの少なさに驚愕してしまった。
相当迷った末に、仕事によるものと言えばそうだが直接的には無関係である自身の単身赴任の
日々について、思いのままダラダラと書かせて頂こうと思う。

 現在、自身3回目となる単身赴任の最中である。最初は20年以上も前に出生の地であり家族と我が家がある大阪から東京へ。その後一旦大阪に戻るも再び東京と一往復。そして何故か3度目の東京勤務となり現在に至る。
我が家の二人の子供たちは今ではいずれも社会人になり、その間まさに「親は無くとも子は育つ」状態であったろうと自分では思ってみるものの、冷静に考えれば当然ながら家内には随分と助けられたのだと思う。

 単身赴任をしていると周囲の人からしばしば尋ねられる事が幾つかある。実はそんなに興味など無いに違いないが、いわゆる社交辞令の一つとして。尋ねる方も気の毒だ。
まずは、「ご飯はどうしているの?」。最初の時こそごくたまに自炊していたが、手間もかかるし割高だし、それらを補うメリットを他に見出せなくなり、あっと言う間に撤退して専ら外に頼る日々である。一人飯は寂しくないかとも問われるが、幸い適度に公私の約束や行事等が入る事もあって自分的には全く問題が無い。
次に頂くご質問は、「週末は何しているの?」。冷静に考えるとなかなかにプライベードに踏み込んだ問いではある。興味など無いくせに…。ただこれには答えられるネタが結構あったりする。朝食前に1時間ほどウォーキングする、うち1日は途中で最近見つけた中野セントラルパークに立ち寄りじっくり読書もする、読書はもちろん自宅でも。土曜は必ずゴルフに行くか打ちっ放しに行く、日曜は必ずジムに行ってマシンの後に10km走る。更に合間にオンライン英会話をし、単身なので当然洗濯、掃除をしてクリーニング、買い物に行く。分刻みとなる事も少なくなく、下手をすると平日以上に忙しいのでスラスラと答えられる質問である。

 一方逆に、意外に答えに詰まると言うか説明がし辛い質問は、「どの程度(頻度)家に(大阪に)帰っているの?」である。子供たちが幼い頃や思春期の頃にはそれ自体が絶対的に帰る理由となっていたが今では遠い昔。また親の顔や様子を見に帰るというのも負けず劣らずの絶対的理由となっていたが、家内の方も含めて6年前に実母を見送ったのが最後となった。
そう、もはや帰る理由が無いに近い状態である。「かみさんや家族に会う為に」と言うのは何ひとつ間違いではないけれど、堂々と言う勇気がない。家の状態を見に…と言うのも白々しく、会いに帰るのが楽しみ!と言うペットも飼っていない。挙句の果てに「長年通っているカリスマ美容師に髪を切って貰いに」と言うのは100%嘘ではないものの、受けが悪い。(そもそもカリスマではない)

 それでも、今でも続けて月に一度は例え短い時間であっても必ず大阪に帰っている。
我が家で誰かが待ってくれている感じは無く、正月やゴールデンウイーク等で思いがけず長期になろうものなら不穏な空気を感じたりもするけれど…。
真面目な話、やはり単身赴任生活は何かとストレスが生じ易い。ヘルスとウエルネスを良好に維持するのも決して簡単ではない。1年半ほど前には当社で単身赴任者を含めて若くして社員が突然亡くなる事態が続いた時期もあった。近年の働き方改革や企業の人的資本経営へのシフト等により、単身赴任どころか転勤自体をやめる又は選べるケースも増えてきたと聞く。私見では真っ当な話の様にも思える。

 単身赴任制度を体験する最後に近い世代(?)として、あと何年この生活が続くのか宮仕えの身では知る由も無いが、自分と家族を大事にして今後も頑張ろうと思っている。
いつ、どの様な形で今の生活を終えて我が家に帰る事になるのかを想像してみると…、無論楽しみでもある一方で何か怖い様な気もする。そう、意外に結構複雑な心境であったりするものだ。
                                                      (完)

著者:高橋 正浩(株式会社日本旅行)

掲載日:2024年04月04日