Voice 新年雑感
 事務局に投稿を促されてキーボードに向かったものの、いやはや困り果ててしまった。
ロシア/ウクライナ戦争、ハワイ島の大噴火/火災・イスラエル/ガザ地区の紛争・武力衝突の激化、元旦からの能登半島地震、そして羽田空港での海保・JAL機の衝突・炎上事故。驚いているうちにボーイングの非常ドアが飛行中に吹き飛ぶという報道が飛び込んで来た。これまで複数回の墜落事故を起こしている機種だ。ボルトの緩み?200名もの乗客を運ぶ飛行機だぞ。おいおいおいおい!

 ロシア/ウクライナ戦争はイデオロギーの対立に起因する。元に戻さない限り対立は永遠に続き、世界を巻き込む戦争大拡大の可能性も憶測される。元に戻す?どこまで戻れば良いのか?
 イスラエル・ガザ地区の紛争は宗教の対立を起因とする。一旦は力で押さえ込んでも、心の支配は敵わない。この対立はさらに強まり、お互いの憎悪をベースとした永遠の戦いの繰り返しの道を歩むことになるのだろう。
 最近、東京では大きな体感で受けとめる地震がないなあと思っていたら、能登半島での大災害となって現れた。道一本で繋がれている被災地にはこの酷寒の中、救いの手もままならない。
 その大災害地へ救援物資を運び急ぐ海保機がJAL機に追突されるように衝突炎上。

 いずれの事故・災害の報道に落涙を禁じ得ない。

 そして、“今だろう、なんとかリーダーシップを発揮せよ”と期待したい日本の政治には国民が愛想を尽かしている。

 宗教的な対立、自然災害、人的ミスによる事故・災害などで、旅の基本概念たる安心安全はそれらの爆風で吹き飛んでいる。旅行産業にとっては厳しい時代を確認させられながら新年を迎えることになった。三年間にわたる厳しいコロナ前線が過ぎ去り、遅々としながらも上昇気流が吹き始めたかなと、年明けに相応しいポジティブな投稿としたかったが、なんとも脳天気なフレーズは考えても絞り出せない。

 なんとかポジティブな側面を見出そうと試みた。
 株価が未曾有の上昇傾向にある。日経平均株価は、今日は34年振りの高値を記録したと報道は伝えている。経済全体、特に円安で輸出産業を中心に良いらしい。しかし、この世界的な変動の時代にあっては、企業には内部留保の傾向が強く、勤労者にはなかなかその恩恵は循環してこない。今春の賃上げは5%を目標とするそうだが、そんな程度では世界先進国の所得水準には遠く及ばず、太刀打ちできない。インフレは上がり続ける勢いにあり、実質的な収入の目減りは消費力を減退させている。原油が値下がり傾向にあることは歓迎される。航空運賃・サーチャージの低減に強く効いてほしいものだ。円はこの原稿書いている1月15日現在対米ドル145円ほど。しばらくはこの程度の円のレートに市場も業界も日本は貧乏になったのだと慣れていくことが肝要かもしれない。
 多くの大手旅行会社が経営的に良い数字を発表している。そしてソリューションビジネスとやらへ大きな変化の流れができてきた。ソリューション・ビジネス?昨年までのコロナ特需は自然消滅が自明で、大丈夫なのかな? 本気になって、ソリューションビジネスを極めねば。プロの世界にはプロがいるのだから。
 人手不足が旅行業界の経営陣には共通の話題だが、A I A Iと声高に叫ばれて、いささかの進展が認められ、社員数、店舗数は減少したにも関わらず、大手旅行会社の発表では売り上げ・利益は好転の最中にあると見受けられる。FITが大幅に市場の割合を席巻し、オンラインのブッキングが主流と化し、流通機構も大きく変化した。経営的にも社員待遇の改善にもポジティブに作用しているのではないかと思われる。
 しかし、業界住民の数は著しく減少した。住民の減少は、勿論のこと、産業力には大きな打撃を与える。そして業界人構成の中間層実務者の空洞化は、近い将来に事業のサステナビリティに大きな問題となるだろう。今からの手当て、そして更なる待遇の改善と高質な人材の確保に腐心しなければならないと考える。
 旅の出発点は感性にある。市場の多様化・熟成化が急速に発展し、市場のニーズも変化し、これまでの概念や取り組みでは市場を捕まえることはできないと痛感している。我々業界を構成する者はそうした変化を汲み取り、消費者の感性を理解する能力を備え、将来的にどう変化していくかを予測できる自らの感性を研ぎ澄まさなければならない。長く業界に身を置いている者として、自らの保守性を強く自戒しなければならないと省みる。

 市場に三年余の間滞留した猛吹雪の前線が過ぎ去り渡航制限が解除されてから一年以上を経過しているのにも関わらず、上昇気流の強まりは遅々としている。公表されている直近の統計・昨11月の海外渡航者数は2019年比で60%を僅かに上回る程度だ。まあ好調に回復と伝え聞くビジネス需要の割合を考えると、レジャー市場規模は50%も戻っていないかもしれないと推察する。
 この状況に指を咥えて立ちすくんではおれない。業界の智を集めて海外旅行の復活と業界の存続のあり方を、業界全体として集中して専門に検討する組織を立ち上げるべきではないだろうか?いかにして上昇気流を起こしていくか?業界全体で取り組まなければならない課題はなんなのか?旅行会社の不要論への明確な対応と我々に求められている変化の方向性、ビジネスの透明性の徹底的な促進も進めていかなければならない。まずは自らの産業のソリューションから取り組まなければならないと考え得るが如何なものだろうか?
 ボトムを打った海外旅行業界は格好の体質改善の時期を与えられたと捉えるべきではないか。トラベル懇話会はそうした動きの中核になり得るのではないか? だからと言って私自身が具体的な策を述べられるわけではないが、皆の知恵を拝借したい。

 徒然なるままに締まりのない投稿になってしまいました。

 戦禍・災害の犠牲になった方々に衷心からのお悔やみを申し上げ、合掌。今その最中におられる方々に、折れずに奮起して生き延びて生活を続けてほしいと願うばかりです。

著者:榊原 史博(株式会社マイルポスト)

掲載日:2024年01月16日