Voice クルーズ市場復活は何時?
 外国客船の日本発着クルーズが今年3月から再開され、4年ぶりに10月23日から10月31日までダイヤモンド・プリンセスの沖縄・台湾クルーズに乗船してきました。 満席で2780人の乗客のうち日本人と外国人の割合が50%・50%。そのうちクルーズ初めての方が60%もいました。 通常ではクルーズ初めての方は40%前後です。 それだけクルーズに興味を持たれる方が増えたのではとうれしくなりました。 しかも今回ご一緒したお客様16人のうち半数がリピーターで残り半分がクルーズ初めての60代後半から80代前半の方々でした。 この初めての方々が、クルーズがこんなに楽で楽しくコストパフォーマンスが良い旅行はないと全員2024年、2025年のクルーズを船上予約されました。 
  
 2020年2月にダイヤモンド・プリンセスの乗船客から広がったコロナ、このコロナ禍が予想以上に蔓延し、まさに我慢の3年間でした。 外出もままならず海外旅行はもちろんのこと、国内旅行も制限され、多くの旅行会社が倒産するような状態となりました。 勿論内外の客船会社クルーズ運航も中止となりました。 ヨーロッパでは2020年7月にはRCIが最初にクルーズを再開しいくつかの客船会社が乗客定員を制限して少しずつ短期の無寄港クルーズの運航を再開しました。 日本では2020年4月に関東6県、大阪、福岡に第一回緊急事態宣言がでて一層厳しい外出制限がなされその後3回も断続的に緊急事態宣言がでてクルーズ運航の再開もままなりませんでした。
 邦船各社はようやく2020年10月から運航再開しましたが、その後緊急事態宣言が出る度、又は船員にコロナ感染者がでる度に運航再開、運航休止を繰り返しました。 このような苦しい状況の中、就航25周年を迎えた日本クルーズ客船が突然2022年12月に運航終了を発表。3年に及ぶコロナの影響で採算が合わなくなったというのが終了の理由でした。
 外国客船の日本発着クルーズは2023年今年3月から再開されダイヤモンド・プリンセス、クイーン・エリザベス、MSCベリッシマが運航されています。 残念なのは運航停止前に予約していたお客さまの高齢化が進み、体調不良等で3年間も待ちきれず途中キャンセルされていたりして、各社再開直後のクルーズは集客に苦労しているようでした。 
 それでも夏以降は邦船の国内クルーズ、外国客船の日本発着クルーズとも順調に回復軌道にのっています。 コロナ後再開されたクルーズで一番残念なのは外国客船も邦船も人手が足りなくて船内サービスが相対的に落ちたことでしょう。
 アラスカ、地中海クルーズ等海外の人気クルーズは円安によるクルーズ代金の高騰、又航空運賃の高騰で、旅行代金も高くなり、集客に苦労しています。コロナ前の2019年度の日本のクルーズ人口は35.7万人で市場最高と喜んでいて、この調子なら2020年には50万人、2025年には100万人だとクルーズ業界は多いに盛り上がっていました。 しかし2023年度は対2019年度の50%弱位の回復ではないかと思います。 
 一方で、インバウンド効果で日本に寄港する外国客船が急激にのびています。7月19日に発表された2023年1月~6月の訪日外国人数は1071万人。2019年度比60%が戻ったと伝えています。 3月には外国客船の日本寄港が再開され横浜港に帰港した外国客船の数は大小合わせて34回。 東京国際クルーズターミナルには31回にもなります。 桜の季節の3月、4月には170,000トン級の大型客船から、30,000トン前後の小型ラグジュアリー船、15,000トン級の高級探検船等米国、オーストラリア、イギリス、フランス、ドイツのクルーズ客船が相次いで両港に寄港しました。こんなに沢山の外国客船が日本に寄港することはコロナ以前にはありませんでした。 まさにこれはインバウンド効果で日本に興味を持つ観光客が急速に増え、客船会社もその要望を満たすべく、日本への寄港を増やしているのです。 日本周遊をするにはクルーズ船が一番、体力的にも、時間的にも、料金的にも楽です。 欧米の客船会社は大型客船、小型ラグジュアリー船も含めてすでに、2024年は勿論2025、2026年の日本寄港スケジュールを組んでいます。 ダイヤモンド・プリンセスの日本発着クルーズも今年再開後アメリカ人、オーストラリア人等欧米のお客様の予約が早くから入っていて、満席と聞いています。 2024年、2025年のスケジュールは欧米人を取り組むために、従来あった5泊や7泊のショートクルーズはなくなり10泊、11泊のロングクルーズばかりとなりました。 日本一周や夏祭りの11泊クルーズのほとんどがすでに満席と聞いています。 日程を長くしている理由のもう一つは海洋汚染防止です。 排気ガスの排出量を削減するには、一つには運航速度を落とすことです。 従来20ノットで航行していたのを17ノット~15ノットに落とすことで排気ガスの排出量低減が図れます。 航行スピードを落とすので、従来より2日~3日日程が長くなるのです。
 コロナ禍で自宅待機するような生活が続く中、生活様式も随分変化してきました。特に大きく変化してきたのは非接触という生活様式やデジタル化です。 書面での案内が減ってスマホや、インターネットを使った予約や、船内での情報提供です。乗客は、乗船前にスマホを使ってアプリを開き、そこに個人情報を入力します。
乗船時にそのアプリを見せればデジタルキーをくれ乗船可能となります。 このキーは以前のクルーズカードと同様に、乗下船時のセキュリティーカード、客室の鍵、船内でのクレジットカードの役割をはたします。 その上、今までにはなかった機能、船内のレストランの予約やデイリープログラムのチェック、請求書のチェック機能等の他に、位置情報が充実し、お友達同士で乗船していて別行動を取っていても、いつでもお互いに船内の居場所が分かり連絡を取ることができるのです。今や欧米の客船会社はこのようなデジタルキーを導入しています。又船内では衛星インターネットアクセスサービス、スターリンクを導入している船社も増え、海上での通信機能が格段と向上し、地上との交信も容易になりました。
 外国客船会社は毎年のように次々と新造船を建造してクルーズ市場の拡大を図っています。 コロナ禍でも新造船建造は着々と進んでいます。 2024年には世界最大の客船RCIの「ユートピア オブ ザ・シー」236,800トン乗客定員5668人が誕生します。 
 邦船2社の新造船ニュースもいつ出るのかと私たちクルーズ業界では今か今かと首を長くして待っていました。そしてついに2023年9月14日 郵船クルーズが新造船「飛鳥III」を発表しました。 2025年就航予定で総トン数52,000トン、乗客定員800名、現在の飛鳥IIの2船体制で総トン数10万トン、乗客定員1600名となります。 「動く洋上の美術館」を目指し、上質なサービスを提供しクルーズを通じて日本文化のすばらしさを伝えたいとの抱負を語っていました。 詳細はこれからとのことですが、どのようにこの2隻を運航するのか楽しみです。
 商船三井クルーズ社も10月12日に新造船の発表がありました。こちらは米国の「Seabourn Cruises」から購入した客船32,477トン、乗客定員450人、Seabourn Odysseyを改造し2024年12月から「Mitsui Ocean Fuji」と改名して運航するとの発表でした。当日の発表は2025年4月12日横浜から出航する100日間の世界一周クルーズの紹介でした。 商船三井クルーズでは現在の「にっぽん丸」と「Mitsui Ocean Fuji」の2隻体制で運航し、2027年には新造船2隻を発表するとのこと。この会見で注目をしたことは今後2隻体制になり外国人、特にアジアからの乗客を20~25%集客するという事です。
 邦船もいよいよインターナショナルな客船会社として発展していくのだと期待します。邦船2社の新造船発表で、日本のクルーズ市場も明るい未来が開かれるのではとうれしい限りです。クルーズ業界も2024年はようやく復活の年となるのではと大いに期待しています。

著者:木島 榮子(株式会社クルーズバケーション)

掲載日:2023年11月28日