Voice いまは「旅の図書館」でお手伝いしています・・・
 トラベル懇話会の活動歴が9年を迎えた昨年、めでたくシニア会員となり早くも1年半が経過しました。多くの皆さまとの知己を得て無事に10周年を迎えられたことに感謝の念でいっぱいです。私事にはなりますが、2013年6月株式会社PTSに移った当時、広報会員拡充委員会活動を通じて皆さまとのご縁が始まり、2019年4月PTSとJTBの経営統合を機に小職は一般財団法人日本健康開発財団に転籍して、人間ドッグの啓蒙活動や温泉地の研究に携わりながら2022年6月まで活動を続けてまいりました。
 これまで定年を迎えられた多くの先輩方から、シニアライフのお話を聞くにつれ、漠然としたライフプランのイメージは湧いてはいたものの、真夏の日々にメジャーリーグ観戦で「オオタニサン」漬けの毎日を過ごしているのも退屈になり、何か社会との接点を持とうとしていたところ、門外漢の私が縁あって専門図書館でお手伝いをする運びとなりました。

 ところで皆さま、「旅の図書館」(以下、当館)はご存知でしょうか。当館は、旅行・観光分野の専門図書館であり、所蔵する資料約7万冊の大半を一般に広く公開しています。運営するのは公益財団法人日本交通公社(以下、財団)で、1912(明治45)年に外客誘致を目的に設立されたジャパン・ツーリスト・ビューローを前身とし、1963(昭和38)年に営業部門(現株式会社JTB)を分離してからは研究・調査に特化した組織となり、国内外の観光政策や旅行市場、観光地域の振興等に関する様々な調査研究事業を行っております。
 当館は1978(昭和53)年、財団の公益事業の一つとして、「観光はそれ自体が文化であり、その文化を向上させたい」という設立理念のもと、東京駅八重洲口に「観光文化資料館」という名称で開設されました[1999(平成11)年に「旅の図書館」に改称]。開設以来、「テーマのある旅を応援する図書館」として、旅・観光に深い興味を持つ方や旅行の下調べを目的とする方などに利用いただいてきましたが、東京都港区南青山への研究本部との一体的な移転を機に、2016(平成28)年10月、「観光の研究や実務に役立つ図書館」へとコンセプトを変え本格的にリニューアルしました。
 これを受け、2014(平成26)年からは新たな図書館構想を策定すべく、約2年をかけて移転・リニューアルに向けた具体的な準備を進めるなかで、当館にとって必要不可欠な取り組みが、蔵書の再構築とそれに対応した独自分類の導入でした。
 一般的に日本の図書館では、公共図書館をはじめ多くの図書館が日本十進分類法(以下、NDC)を用いています。当館も、旅行・観光に関連する一般図書が蔵書の中心であった旧館(東京駅八重洲口所在)の時代はNDCを用いていました。しかし、研究本部との一体的な移転を機とした図書館のリニューアルでは、旧館時代の旅行エッセイやガイドブックなどの一般書を大幅に削減する一方、それまで当財団研究員のみを利用対象とし外部非公開扱いであった研究本部資料室の資料を統合し、可能な限り公開することとしました。
 現在、当館では1FとB1Fにそれぞれ目的に応じた書籍を収蔵しています。1Fライブラリープラザでは、主に雑誌、ガイドブック、地域情報誌、当財団の刊行物・出版物、新着図書など、観光の新しい情報を提供しています。そして、B1Fメインライブラリーでは、観光研究・地域研究資料をはじめ、統計資料、古書・稀覯書、学術誌、ガイドブックや時刻表、機内誌などのバックナンバーなど主要な図書・資料を収蔵しています。
 特に古書・稀覯書類は主に戦前のわが国の観光施策や観光事業、観光地事情、旅行案内等に関する貴重資料を約3,000冊保有しており、概ね2/3はデジタル情報として閲覧が可能となっております。それとは別に当館はUMWTO(国連世界観光機関)刊行物の寄託図書館の指定を受けている関係上、国際的な観光統計や観光動向がわかるレポート等を開架しています。

 さらに、旅の専門図書館ならでは取り組みとして、定期的に館内展示を行っています。ちなみに現在、ライブラリープラザでは「夏のニセコ(2023年7月~9月)」を展示中です。ニセコに住み着いた人々の隠れた名言として、こんな言葉があります。「冬にニセコに『来た』が、夏のために『残った』」。ニセコ好きは夏のニセコこそ待ち望んでいるのです。 夏のニセコほど、風景・空気・水に恵まれた地域はないのではないでしょうか。
 また、2023年9月までは、古書ギャラリーにて「旅行ガイドブックの歴史」を展示中です。本企画展では、明治から現代に至るまでの旅行ガイドブックの歴史をご紹介しています。
あわせて『るるぶ』誕生50周年記念『るるぶ』特設コーナーを設けています。『るるぶ』は旅の情報誌として1973年に誕生して世界・日本各地の「見る・食べる・遊ぶ」を発信し続け、50周年になります。 当館に所蔵する過去から現在までの『るるぶ』資料や図書とともにその時代を振り返り、最新の情報から得られるヒントも見つかるかもしれません。
 なお、当館はどなたでも無料でご利用いただけますが、コロナ禍以降Web事前予約をお願いしているため、入館手続きの際に、ご本人確認ができるもの(運転免許証、学生証など)をご提示いただくことにしています。それ以外はBGMの流れるカフェのような佇まいで自由にお過ごしいただける空間づくりを心掛けています。

 世はDX全盛時代、すべてはAIや人工知能で解決するような風潮に陥りがちですが、図書館の中にいると紙情報の良さを活かしながら、デジタル化の時代に順応していく必要性を感じるようになりました。古き良き時代の財産を活用して、来し方行く末を見据えて、明日の観光業の未来に思いを巡らせるのも一考かもしれません。
 皆さまも、ぜひ青山まで足を延ばしてみてください。どなたでも利用できる専門図書館が意外に近くにあるのです。ご来館を心からお待ちしております。

著者:石田 心(シニア会員)

掲載日:2023年08月24日