Voice 「憧れのハワイアン航路」再来か?
  私が「旅行業界の職に就く」と心に決めたのは中学の頃のテレビコマーシャルで、美しく翼を広げて大空を飛ぶキャセイパシフィック航空がきっかけだった。 BGMにはバリー・ホワイト&ラブ・アンリミテッド・オーケストラの「愛のテーマ」。中学生の私はこのコマーシャルを見た瞬間、身体中に鳥肌が立ったのを鮮明に覚えている。

新卒で入社したのは「ヴィーヴル」と言う老舗ホールセラーで「手配課」に配属された。 学生時代の唯一の海外旅行先がハワイだったので、きっと自分はハワイ担当にしてくれるだろうという甘い期待は当然ながら叶わず、TC2・3の当初はまだ「地味」なディスティネーションの担当となった。 TC1を担当している先輩女性達は華やかで羨ましかった。 その頃はTC1エリアにはすでに“ファクシミリ”が使えるようになっていた。かたや、TC2・3はまだまだ“テレックス”の時代だった。 頼り無い細い紙に「カチ・カチ」と穴を開けながら長い文章を打ち込んで行くとダラリと垂れたその穴あきの細い紙が足元に絡み、何度も踏みつぶし千切れ泣きながらもう一度打ち直しては、隣で華やかな先輩がA4サイズの紙をファクシミリで「ぺろーん」と送り、スカートの裾をヒラリと揺らしながら去っていく後ろ姿に「世の中は不公平なのだ!」と恨んだ事もあった。

それから何十年後、「ハワイ」との縁があり、ヒルトン・ハワイ、カハラ・ホテル、リッツ・カールトン・ワイキキと気が付けばもう20年近くハワイとの関わりを続けている。「芸能人はハワイがお好き」というコマーシャルも随分昔に流行ったが、日本人には断トツの人気ディスティネーションで2019年は年間の日本人渡航者数は150万人を超えていた。

そしてやってきたパンデミック。空白の3年が過ぎ、ハワイにも他国から観光客が戻ってきている・・・しかしこれは日本人を除いての話だ。 Visitors Statistic International Passenger Countsを見ると、2019年の4月は平均5,000人近くが日本からホノルルへ毎日到着していた(日本人ローカル・レジデンスも含む)が、今年のゴールデンウイークもピーク日で2,700人程度の数字に留まった。

円安や物価高騰のあおりもあるが、これだけ高額になってしまったハワイへの対価を日本人がどう判断するか? 航空機もビジネスクラスだけが満席でエコノミーは空席が目立つ昨今のハワイ線。 飛行機と船の違いはあるものの、これでは「憧れのハワイアン航路」の時代に戻ってしまっている傾向を続いている。 

新型コロナウイルスもようやく2類から5類への引き下げ、また米国への渡航条件も緩和され、誰もが大好きな、また業界にとっても重要ディスティネーションである「ハワイ」が復活してくれる日を祈る毎日を送っている。
 

著者:舩岡 千晶(LUANA合同会社)

掲載日:2023年05月17日