Voice 巨木巡り
  和歌山城内に楠の巨木があり、その根元に「くすのきさん」と呼ばれる祠がある。私が小さいころ大病をしたときに、母がそのくすのきさんに毎朝お百度参りをしてくれたおかげで大病が治ったということもあり、昔から巨木信仰が心の中にあった。そんなこともあって25年くらい前から、旅行に行った先々で巨木を訪れるようになった。それが高じて、最近は巨木に会いに行くことが旅行の主目的になっていることも多い。

 同好の士はいるもので、巨木に関する書籍やHPなどは結構出ており、それらを参考に誰に会いに行くかを決める。巨木ファンにとって、どの程度の巨木かという点で一番重要な要素は「目通り幹囲(根元から高さ1.3メートルのところの幹回り)」である。高さ、樹齢、根回り、樹冠の広さなども大事な要素だが、何はともあれ幹の太さである。なかには目通り幹囲を測りにくい巨木もあって、巨木ランキングなどを作ろうとするとファンの間では議論百出となる。

 巨木巡りの醍醐味は、まずは「巨木との出会い」である。わかりやすい案内板などがあって容易に行けるときもあれば、地図を見てもわからず、道なき道を歩きやっとたどり着くこともある。いつもワクワクしながら会いに行くのだが、遥か彼方から見える時もあれば、いきなり全容を現すこともある。そして対面した瞬間の気持ちの高揚が何とも言えない。ほとんどの場合、すこぶる良い気持ちになるのだが、極度に衰弱していたり、ひどい場合は倒木していたりすると悲しくてたまらない。

 対面後は、近くから見たり、少し離れて眺めたり、何回も周りを回っていろんな角度から見る。 最低でも30分くらい、時には時間の経過を忘れてしまうこともある。根元・幹・枝ぶり・葉の付き方・衰弱部分の有無・洞(ウロ)の有無・肌つや・生育環境など、見るところはいくらでもある。その時の気持ちは、「驚嘆」「畏れ」「尊敬」「感心」「励まし」「親しみ」「悲痛」などさまざまである。
 
写真はほとんど撮らない。巨木をうまく撮るのは大変難しいのである。せいぜい、幹回りの太さがわかるように、同行の家族のだれかにマッチ棒代わりに幹の近くに立ってもらい、幹全体が写るようにして根元部分を撮る程度である。筆不精なので、記録もつけていない。記憶は私の頭の中だけに残っていて、きっと随分忘れているものもあるがそれで構わない。

 私にとって「好きな巨木は?」と訊かれるのは、「好きなオペラは?」と訊かれる次に難しい質問である。今日(3月24日)、この原稿の執筆の依頼をいただき、本日のうちに、ここまで自宅で書いた。このあと原稿締め切り日の4月5日まで時間をかけて、「好きな巨木10本」をアレコレ悩みながら選んでみたい。

(ここからは4月2日執筆です。)
毎年春に欠かさずに行っている福島県中通りへの枝垂れ桜巡り、今年は開花が早くて、昨日行ってきた。この地方には見事な枝垂れ桜が沢山あって、とても幸せな気分になる。これから開花を迎えるものもあって、今度の週末も行く予定である。

以下の通り「好きな巨木10本」を選んだ。 選ぶだけでも大変で、順位をつけるまでのことはできず、北から順番に並べた。

木の名前 所在地(件・市町村) 目通り幹囲(必ずしも正確ではない) 好きな理由など

●東根のケヤキ 山形県東根市 13m
小学校の中に立つ。ずっしりと均整の取れた姿が魅力。 登りやすい形をしていて、以前は小学生が良く木登りをしていたらしい。

●杉沢の大杉 福島県二本松市 12m
端正な樹形。手厚く保護され、また、周り360度どこからでも全容が見える。かつては60m以上あって日本有数の高さを誇ったが、最近は背が低くなった。

●三春の滝桜 福島県三春町 8m
その枝垂れる様はお見事。 おそらくは日本で一番花見客が多い一本桜。 春は三春町内も周辺地域も枝垂れ桜が咲き乱れる。

●吉高の大桜 千葉県印西市 7m
首都圏からも1本選んだ。北総台地にドーンと立つ山桜。樹冠の大きさが素晴らしい。 車で行くのが便利だが、成田空港に向かう北総線(スカイアクセス線)の印旛日本医大駅から徒歩でも行ける。(片道40分くらい) 見ごろの期間が極端に短いので要注意。

●石徹白(いとしろ)の大杉 岐阜県白鳥町石徹白 14m
日本でも屈指の樹齢であることは間違いない。白骨化していて神々しく見える。近くの白山中居神社には無数の杉の巨木が林立していて、これも神々しい。

●加茂の大クス 徳島県東みよし町 14m
理想的な樹形。 大きく広がった樹冠(枝や葉の部分)が素晴らしい。一番好きな巨木である。

●杉の大杉 高知県大豊町 17m
小学生の時に見たときのド迫力が忘れられない。当時は高さ68m(ダントツ日本一)だった。今は50m程度になったが、その太さ、風格は素晴らしい。

●八村杉 宮崎県椎葉村 13m
太さ、高さ(54m)、樹形などを総合すると日本一の杉と言っても良いと思う。 すごく元気なところが嬉しい。

●大久保のヒノキ 宮崎県椎葉村 8m
八村杉のすぐ近く。縦横無尽に枝を張りめぐらせていて、また赤褐色の肌をしており、独特の雰囲気がある、

●蒲生の大クス 鹿児島県姶良市 24m
日本最大の巨樹。文句なし。地上0メートル部分の幹回りは33mに及ぶ。

ちょっとメジャーなものを選び過ぎた感はありますが、石徹白の大杉以外はどれも容易に訪れることができます。近くに行かれることがございましたら、ぜひ訪ねてみてください。

<添付写真説明> 4月1日に福島県中通りに行ってきました。 その際の写真から、①「好きな巨木10本」に挙げた「滝桜」(早くも満開でした)、② サワラでは日本一の「沢尻のサワラ」 ③ 幹回り10メートルクラスの二本の杉が並び立つ「諏訪神社の翁スギ媼杉(ジジスギ・ババスギ)」を添付致します。 いずれも私が小さく写っております。
 

著者:島本 啓太郎(エムオーツーリスト株式会社)

掲載日:2023年04月06日