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皆様は「競輪」をご存知でしょうか?その言葉を聞くとマイナスのイメージが強いかもしれません。しかしながらこの競技は実に人間臭い。「人生の縮図」「社会の縮図」とも呼ばれ、勝者を予想するには、その人の強さは勿論、人間関係なども考慮する事が必要で、選手の情念、ファンの情念の籠った奥深い競技なのです。

「ただ勝てばよいのなら競輪というスポーツはたいして面白いものではないだろう。
勝利の中に全てがあるわけではない。むしろ、敗れたことによって得るものが多いのは私達の人生ではなかろうか。」(劇作家:伊集院静)

「レースを推理するには、その人独特のスタイルがあるものだ。そのスタイルを自分の人生や組織などに当てはめてみると意外に物事の流れが明確に見えてくる。人が集まる場所には必ず競争があるからだろうか。」(俳優:中村敦夫)

「競輪は勝ってなんぼだけじゃない。見てなんぼ、見せてなんぼという側面があるから熱狂するのだ。それは生きる上でいったい何に魂を焦がしているのかという事だろうし、その連続だ」(歌手:友川カズキ)

うーん、深い。深すぎる言葉ばかりですが、下記に出てくる単語を「上司」「部下」「部署」「組織」「会社」などに置き換えて考えて頂ければ以外に共通点があるのではと思っております。このような題材を取り上げるのは少し勇気が必要でしたが、業界にも色々な人がいるのだと大目に見て頂ければ幸いです。

競輪は日本で一番プロ選手が多いスポーツでおよそ2300人以上在籍しており(プロ野球選手が900名程度、プロサッカー選手が1900人程度)、A級1、2、3班とS級1、2班とランク分けされその中で日がな一日熱いレースを繰り広げます。その年の大きいレースを勝った選手や賞金獲得ランキングで上位の選手9名は「S級S班」と呼ばれ輪界の頂点に君臨します。レーサーパンツもその9人だけは赤色で「栄光の赤パンツ」などと呼ばれます。また毎年新人も入ってくるので成績下位の選手は「代謝制度」といわれ30人ほどが強制引退、所謂クビになります。この「代謝制度」もドラマがあって泣けるのです。

レースは7〜9人の選手が自転車でバンクを周回して1位を競い合います。バンクを4〜6周するので単純なスピード勝負ではなく、相手との駆け引きの要素が強いことも醍醐味です。特にラストの1周回は「打鐘(ジャン)」と言われる鐘の音と共に各選手がより激しい動きとなり、ここが見せ場です。選手の思いと観客の思いが交錯して熱を帯びるのです。

競輪では各選手が個々の脚質に応じ、全力を発揮して勝利を得るために、他の選手と連携します。これを「ライン」と呼びます。全国で地区分けした北日本、関東、南関東、中部、近畿、中国、四国、九州と各地区を基本に2、3名でラインを組みます。時には同期同士でラインを組みこともあります。このライン同士の戦いが最大の魅力で、これを自分なりに解釈して勝者を予想するのです。おおよそ3名で並んだときは若者、中堅、ベテランの順に並びそれぞれの役割を果たします。前は風よけ、真ん中は他ラインのブロック役、後ろは司令塔のような感じです。20歳と50歳と親子程年の離れたラインもあります。地区によっても特色があり〇〇地区は絆が強い、○○地区は自分だけ勝てば良いという選手ばかり、誰とも組まずに単騎で勝負する選手など色々な要素があるのも魅力です。ただ、しっかりした先輩選手がいるところは絆が強いのはどの世界でも同じ事ではないでしょうか。

ラインでは若者や新人が先頭を走る事が多いですが、(※先頭は空気抵抗を受けやすく、それによりスピード低下や体力の消耗が起こってしまい、よほど強くないと勝てないのです。逆に強すぎる新人などは後ろをぶっちぎってますが。)先輩も若い頃は、同じように先頭を走りそのまた先輩の風よけになり、世代と共に真ん中、後ろを走ります。それぞれのラインで作戦を立て、上手くいけば称えあい更なる練習、失敗すれば反省と猛練習の繰り返し。上手く運んでも実力不足で負ける事も多いです。その時もひたすら練習です。先輩の為に先頭で必死にもがく後輩や新人、後輩の為に体を張って他選手をブロックする先輩など、自分の勝利よりも先輩、後輩を優先させることもあります。勝負の世界で色気や悔しい気持ちを抑えて、潔い負け方をするということは、中々できるものではありません。そこで得たもの、勝利とは別の何かをそれぞれ下の世代に伝えていくのです。先に述べた「代謝制度」では何とか先輩を勝たせようとライン皆が必死になって走るので、勝ち負けとは別の何か熱いものが込み上げてくるのです。

勝った選手でも勝利者インタビューで「ラインの仲間に迷惑をかけた」と神妙な顔をして、負けた選手でも、選手を迎える敢闘門で同地区の仲間から「良くやった」と肩を叩かれ褒められる。見ていて涙が溢れる光景です。こんな競技、他にあるのでしょうか。

このように競輪は個人競技でありながらラインで戦うチーム戦、先輩と後輩や師匠と弟子、そして同期の絆など社会そのものを表している競技なのです。競輪を通じて色々と学べることが多いのです。物凄く授業料を払ってますが。
ほんの少しでも興味を持って頂ければ幸いです。

最後になりますが、業界でもラインを組んで困難を乗り越えていければと思っております。

著者:川端 高(株式会社クロノス・インターナショナル)

掲載日:2023年03月13日