Voice 独⽴住⺠投票
 UTA フランス航空の機体が⾼度を下げ始めたとき、まぶしい光と共に窓の外から⾶び込
んできたのは島というよりは⼤陸のようなどっしりとした景観でした。眼下に⻘い海は⾒
えるけれど、陸上には滑⾛路と⼩さな空港ターミナルの他に街並みのような建物は⾒当た
らず、⾚茶けた⼭肌と⾒慣れぬ⽊々に覆われた地に降り⽴ったのが1983年3⽉のニュ
ーカレドニアでした。トントゥータ国際空港から54km、バスで約45分の⾸都ヌメアは
洗練された町並みと美しいビーチに囲まれたリゾートエリアで、空港に到着した時の印象
とは全く異なるものでした。そして、その丁度1年後に改めて当地を訪れ、シトロン湾に⾯
したローカルオペレーターのオフィスの⼀⾓で、私のニューカレドニアでのコーディネー
ター兼ガイドの仕事がスタートしました。⽇中は⽇帰りツアーの同⾏ガイドや空港・港の
Meet/send 業務、⼣⽅からツアーデスク、その後に⼿配関連のデスクワークと毎⽇早朝から
夜遅くまで働き詰めの⽇々が続きましたが、美しい⾃然とその景観の中に⾝を置いて仕事
が出来ることと、お客様が滞在を楽しんで頂ける事で充実した⽇々を過ごしていました。仕
事にも慣れはじめ1年が過ぎたころの事、オフィスでデスクワークをしていて、ふと⽿を澄
ますとどこからか遠雷のような、或いは打ち上げ花⽕のようなドーンという⾳が繰り返し
聞こえました。何事かと⾳のする市街地に⾞を⾛らせました。穏やかなシトロン湾からオル
フェナ湾を横⽬にまっすぐ市街地へ向かうと、そこには⽬を⾒張る光景が広がっていまし
た。多く独⽴反対派の⼈たちがフランス政府への抗議の為海外領⼟県庁(⾼等弁務官事務所)
の正⾨に押しかけ、それを排除するためにデモ隊に催涙弾が放たれ⽩煙があがっていたの
です。また、独⽴派に加担したとされる市街地在住の⼈の⾞やアパートに放⽕もされていま
した。

 ニューカレドニアでは1960 年代末より先住⺠族メラネシア⼈(Kanak,カナク)により⺠
族の主権回復とカナク⺠族を主体にした独⽴運動が展開されてきました。当時既にカナク
⾃⾝混⾎も多くフランスからの⼊植者やニッケルの労働移⺠などによる多⺠族社会であり
カナク⺠族国家としての独⽴は不可能とされていました。しかし、独⽴運動第Ⅱ期となる
1984 年〜1988 年は独⽴派と反独⽴派の対⽴が激化して、共に武⼒闘争に突⼊した年でもあ
りました。前述の抗議デモの発端は、地⽅で激しさを増した⼀部の過激な独⽴派と治安部隊
との衝突に巻き込まれた少年が命を落とすという悲しい出来事に対する抗議デモであった
と、後に知る事となりました。そして、ニューカレドニア全⼟に戒厳令が発出され、⽇本か
らのツアーは催⾏中⽌となりました。⾸都ヌメアの治安維持のため多数の国家警察(CRS)
が続々とニューカレドニア⼊りし、既に地⽅に配置されていた3000名近い国家憲兵隊
(通称ジャンダルム)により治安が完全に維持されると戒厳令は夜間外出禁⽌令に緩和さ
れ、⽇本からのツアーが再開される事となりました。カジノは昼から営業を始め、トップレ
スビーチのアンスバタやシトロン湾は多くの若いフランス⼈男性(⾮番のCRS)で賑わう
ビーチにとってかわり、それでも夜間外出が出来ない以外は穏やかな⽇々が続いていまし
た。
2ヵ⽉程度で夜間外出禁⽌も解禁されたと記憶しています。しかし、独⽴運動は地⽅におい
て激しさを増しつありました。

 昨年2021年12⽉12⽇、ニューカレドニアでは「独⽴の是⾮を問う」住⺠投票が⾏
われました。⽇本では、中国の南太平洋進出を懸念する報道で記憶されている⽅も多いかと
思います。この住⺠投票は1988 年に独⽴派議⻑・反独⽴派党⾸・フランス政府⾸相など3
者の代表によるマティニヨン合意、その合意を補完する1998 年のヌメア協定を経て、20
年後の2018 年から3回実施する最後の住⺠投票でした。結果は独⽴派の投票ボイコットに
より反対派の圧倒的勝利となりました。この選挙結果を得て、現地の⽅々はまた独⽴派が暴
動を起こすかもしれない、と危惧する声もあり、私も37年前の前述の光景が浮かびあがり
ました。オセアニア島嶼国のほとんどがイギリスをはじめとした英連邦系宗主国から平和
裏に脱植⺠地化を終了したのに対し、数⼗年を得てもニューカレドニアではカナク独⽴運
動の⽬的は遂げられない結果となりました。
 ヌメアに暮らしたころの記憶が蘇りウベア島からヌメアに戻るセスナからの空⼀⾯が⼣
焼けに染まる光景やどこまでも続く⻘く美しいリーフ、潮騒やヤシの葉が⾵に揺られてざ
わめく⾳など数々のシーンが浮かび上がり、平和である事の⼤切さを思う時、出来うるなら
ば独⽴派も反独⽴派も共に多⺠族社会であるニューカレドニアがいつの⽇かカレドニア社
会としての統合を、対話と共調により果たしてくれることを信じてやみません。

著者:松本 晃(株式会社ユー・ティ・アイ・ジャパン )

掲載日:2022年08月10日