Voice 運航停止中~再開後の組織づくり/コロナ前後での会社の変化
2020年初頭、世界はコロナウイルスによって大きな変化を強いられました。旅行業界をはじめ私共クルーズ業界も厳しい状況に陥り、現在も日本での外国客船運航には制限がかけられています。パンデミック当初は世界で運航する約300隻の客船が一時運航停止となり、収益はゼロ、しかし本船の維持に莫大な費用が発生するので日々キャッシュが流出していき、弊社の財政状況は非常に厳しくなりました。先が見えない中でいかに会社を存続させるか、また社員のモチベーション維持向上をどのようにするかなど、組織の在り方を今一度考えるようになりました。

会社の存続という点では、社員が日々あまり認識していなかった予算やコストを常に意識させることで、自分事として捉えるよう教育しました。私から社員へメッセージを発信する場でも常に数字の話を取り入れ、営業だけが数字を追うのではなく、全社員が意識して非効率な営業や業務を廃止し、コスト削減が何よりも重要であると認識させました。

コロナ発生前は、なぜか分からないがやり続けていた仕事も多々あり、他部署とのコミュニケーションも円滑とはいえず、部門ごとに区切られた縦型の組織でした。このような体質を一新し横串の組織体制を整えました。各部門からの情報発信の場として週次で全社会議を開催し、情報共有を徹底しました。また、部門を超えたプロジェクトへ参加させることで、各人が主体性を持ちリーダーシップを発揮して物事を進める努力を促しました。

運航停止中は営業活動にも制限があり、対面でのコミュニケーション頻度が下がったことで、社員のモチベーションが低下していきました。米国本社の方向性の変更などで、進みかけていたプロジェクトの中止なども発生します。やりがいが失われたと思われた場面もありましたが、視点を変えれば、日本法人にとっては残念な場面でも、財政やリソース面などグローバル規模では適切な選択であるため、広い視野を持ち、グローバルに物事を考える前向きな視点を与えるきっかけとなりました。

禅の世界に「逆風張帆」という言葉があります。文字通り逆風に帆を張るという意味で、逆風をつかみながら船を操船し前へ進む、つまり逆境でもその状況をうまく操りながら活路を開いていくことです。私にとってこの期間は、様々な局面を乗り越えながら古い企業体質から脱却を目指すチャンスと捉え、社員の意識改革と個人の成長を促す新しい組織づくりに注力していきました。

個人の成長は会社の発展となります。このパンデミックを経験したからこそ、社員一人ひとりがリーダーシップを取り、あらゆる試練にも柔軟に対応できる、逆境に強い組織を形成できると信じています。

現在、海外ではほとんどの国で客船運航が再開され、プリンセス・クルーズも残り2隻で全船隊の運航が再開されます。日本はインバウンド受入れが開始され、旅行業界へも徐々に明るい兆しが見えてきました。外国客船の運航再開はまだ先ですが、旅行需要の動きが加速され、運航できる日が近いことを期待しています。日本は観光魅力度の高い国として諸外国から注目され、さらに円安の影響もあり外国人観光客にとっては好条件であります。クルーズを運航することができたら、より深く日本の魅力を伝えられる機会となるので、そのチャンスが無いことが残念です。今後も日本のクルーズ市場の活性化、コロナ前のレベル以上にクルーズ人口が戻れるよう、関係各所と協働して進めて参りたいと思います。

この場を借りて関係省庁並びに旅行会社様、クルーズ運航に関わる全ての皆様へ、運航再開に向けて、そしてその後のクルーズ運航へご協力・ご支援を賜りたく何卒お願い申し上げます。

著者:堀川 悟(株式会社 カーニバル・ジャパン)

掲載日:2022年07月14日