Voice 旅行会社の行方
「構造改革から回復・発展・成長へ」「事業領域の拡大と新規事業推進」「ソリューション事業・BPO事業の拡大」「地域共生・自治体との連携強化」…
これらは年始に業界メディアに掲載された旅行各社トップによる年頭所感で、複数の社で共通して用いられたキーワードであり、各社ともに従来型旅行業から大きくビジネスモデル転換を図ろうとしている姿勢が見て取れる。因みに、本年度創業117年目を迎える弊社では上記に加えて更に「非旅行業分野へのシフト」なる直球的フレーズも標榜しており、小生を含め長く旅行会社に勤務してきた者にとっては隔世の感を覚えるところもあるかと思う。
コロナ禍3年目を迎える2022年年頭に、旅行各社トップが挙ってこれらのキーワードを掲げ種々の取組みを推進していかざるを得ない現状や背景等を改めて思い巡らせてみた。
まず何より、未曾有の壊滅的危機が長期化している中で生き残りを賭けた構造改革の継続が不可欠であり、その痛みを乗り越えて初めてコロナ後の成長可能性の権利を得るという切迫感がある。但し、その道は大変険しく実現の可能性も決して高いとは言い切れない。
また生き残って発展・成長を果たす為には、もはや需要がコロナ前に戻る事は無いという前提のなかで、ビジネスモデル転換を実現する他に道が無いという現実と実感がある。ニューノーマルは到来しないとの説もある様だが、需要の変化は恐らく誰もが否定出来ない事実であると考える。
そしてビジネスモデル転換の具体的手法として、旅行手配や商品販売を主とする旅行事業から顧客の課題解決を目指すソリューション事業へのシフトや、中央省庁や地方自治体事業の受託や観光人材派遣等BPOを柱とする事業領域の拡大、着地型へのシフトとそれに直結する地域との連携及び地方創生の強化等々を位置付けている。果たしてこれらの取組みが道を開いてくれるのか否かも、現時点では不透明と言わざるを得ない。
 これは、この2年間散々言われてきた「従前からの認識課題への取組みをコロナ禍により数年~十数年前倒しを強いられている」種の話であるとも言えるし、もはや言い古された感もある「生き残るのは力の強いものではなく変化に対応できるもの」とのダーウィンの進化論的話でもあると思う。
トラベル懇話会の会員会社の一員としては、目下最大の関心事は一体いつ国際往来が再開するのかという点であるが、一方で往来が再開すればそこにバラ色の世界が広がっているかと言えば、事はそんなに簡単ではないと考えている。
 いずれにせよ、コロナ禍はやがて収束に向かい旅行会社のみならずツーリズム産業全体が再稼働する日は必ずやって来る。そこに向けて今何を考えて何を取り組むのかが問われている。
弊社内でも半分本気、半分冗談で話しているのだが、いつか社名から旅行という文字を外す日が本当にやってくるかもしれない。

著者:高橋 正浩(株式会社 日本旅行)

掲載日:2022年02月02日