Voice 私の英語修行
 Voice出稿の番がまた巡ってきた。前回は、英国とのかかわりを書いたので、今回は大学受験時代に取り組んだ英語修行を少々書こうと思う。
 アウトバウンド中心の中小旅行会社は、海外とのかかわりも多く、そのため外国人とのコミュニケーションに苦労する。私も、50年以上この仕事に拘わり、語学の失敗は数知れない。
 最初にコミュニケーションを図れる英語力を身に着けようとしたのは、大学受験で浪人中の頃であった。1968年4月自分の立てた受験計画が失敗し、2浪目に入ることに呆然としていた時のこと、考えてみれば、高校、予備校と自分は世間を何も知らない。そこで新聞広告を見て、羽田空港の清掃人になって、世間を見てみようと思った。配属されたのは羽田空港国際線で、主にパンアメリカン航空のカウンター横の階段などの清掃であった。世界中から集まった乗客と空港職員の間で英語が飛び交い、活気ある職場はそれまでの日常生活とかけ離れたものであった。仕事をしながら国際的な華やかさと日本と世界がつながる雰囲気を目撃したことは英語習得の意欲をかき立てるものであった。
 そこから、私の英語独学が6月ころから始まった。受験英語に飽きていたこともあり、受験英語を離れ、偉人伝を読んで語学習得のヒントを探すことを思いついた。図書館でいろいろな偉人の本を読んでみると、世界に出るために数か国語ができることが当たり前のように書いてある。ではどのようにして、彼らは語学を習得したのか、その詳細はよくわからない。いろいろ読んでみて、ハインリヒ・シュリーマン伝(白水社)が一番具体的であった。それを基本に作戦を立てた。自分の手近な教材を使い数か月英語学習のみに集中した。
 それは、言葉(英語)は言葉(英語)として覚えることであった。それには声に出して読む(音読)と言葉を発する体を通して自分の脳に焼き付けられることで、英語学習には最適であることが分かった。英語の単語は、英語で説明できることを心掛けた。数か月の英語独習中、辞書は英語辞典(開拓社)を使い、読書も原書、聞く放送も英語放送、日記も英語で付けた。つまり英語三昧の生活である。
 具体的には、易しい英語、中2、中3で使った英語の教科書の単語をすべて英語辞典で調べ、英語で説明できるようにし、音読しながらすべて暗記した。次に会話力を身に着けるため、当時聞いていたNHK英会話テキストを同様にして半年分を暗記した。また大学受験では、社会は日本史と世界史をとっていたので、ストーリー氏のA history of modern Japan (penguin books)とH.G.ウエルズ氏の A short history of the world (penguin books) を2回ほど通読し、良い文章は書き取り、英作文のお手本とした。英語の小説は、ヘミングウエイが最適であった。
 声に出しながら、英語に取り組み、常に英語で考えるようにして数か月たった時、英語で夢を見た。うれしくなると同時に、自分は英語ができるようになったことを体感した。今思い返しても、恥ずかしい自覚であったが、それ以降、英語を話し、折衝することはおっくうでなくなっていったことも確かである。
 あまり、人様に話す事柄でもないが、外貨制限があり留学の道が閉ざされていた時代、先人たちは苦労しながら英語を学んだことを、自分のささやかな体験を通して後輩たちに伝えたいと思った次第である。

著者:池野健一(株式会社ユーティエス)

掲載日:2023年08月08日