トラベル懇話会 Travel Management Club
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例会抄録
2008年 新春講演会
 
平和な世界を旅するために
 
小川和久氏
軍事アナリスト
 
トラベル懇話会の新春講演会は、テレビなどでも活躍する軍事アナリストの小川和久氏が「平和な世界を旅するために」をテーマに講演。小川氏はわが国における危機管理の第一人者としての立場から、日本の危機管理の現状や問題点、日本人の平和と安全に対する意識などについて鋭く指摘するとともに、世界平和のために旅行産業が果たすべき役割についても触れた。
 
我々は安全と繁栄の両方とも手に入れられればいいのですが、歴史上それを実現できた国は多くはありません。日本は安全と豊かさをどう実現していくべきか。それには順序があります。まずは世界平和のたに官民一体となって取り組み、その中で日本の安全と平和をより確かなものにしていく。そしてこれを足場に、世界をマーケットとして産業を繁栄させうるのです。安全と平和なくして繁栄なし。そういう順序です。
ところが危機管理コンサルタントとして企業や官庁を見る限り、先進国の中で日本は最も問題が多い国であり、愚直に取り組んでいかなければ崩壊します。一番の問題は、官も民も形式にとらわれる点です。隣と同じことをしておけば、何かあっても勘弁してもらえる。そう考える結果、危機管理が穴だらけになってしまうのです。
防衛省をめぐる最近の問題も、事件の根底には国家の安全に対する問題意識の低さがあります。守屋次官の汚職の話も、たとえば防衛関連の官僚や自衛隊の幹部クラスに護衛をつけていれば、起きなかったことです。防衛省の次官が、無防備な姿で朝のゴミ出しをするなんて方がおかしい。万が一、防衛省の官僚トップが拉致・誘拐でもされたら国民は大迷惑なのです。自衛隊の武器紛失やイージス艦の情報漏えいなどの不祥事も同じことですが、防衛省や自衛隊が国民の安全を守るための活動を普通に行っていれば起こりえない事件です。
おがわ・かずひさ ●1945年生まれ。陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。その後、陸上自衛隊航空学校で航空機整備を学ぶ。同志社大学神学部中退後、『日本海新聞』や『週刊現代』(講談社)の記者などを経て84年に日本初の軍事アナリストとして独立。危機管理総合研究所代表取締役研究所長を務めるかたわら、国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、総務省消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査なども務める。
 
民間にも問題があります。企業内では危機管理に問題があっても「担当の誰それの顔をつぶしてしまう」といった理屈で、うやむやになりがちです。また、たとえば専務が危機管理を担当しても、他の役員も含めて一体になっていなければ機能しなかったりもする。危機管理は企業のトップ、CEOがやらなければ駄目です。
危機管理はワールドクラスで考えることも必要です。世界で通用しなければ一文の価値もないのが危機管理です。テロ特措法は日本の問題の象徴でしょう。テロを克服する営みを、単に対米協力の営みとして議論することが、まずおかしい。日本がテロ撲滅に資することの意味こそ議論されなければなりません。9.11の後に、当時の小泉首相に対して「米国との同盟関係として考えるとテロ撲滅の営みはできなくなる」と進言したことがあります。同盟関係を掲げれば集団的自衛権などさまざまな問題が出てきてしまう。そうではなく、日本国憲法前文がうたう“世界平和を実現するために行動する”趣旨に則り、テロを撲滅し平和を実現するために、憲法の制約内で自衛隊を動かすことができるはずです。そうでなければ日本の平和主義は嘘になります。
テロ特措法の期限切れで日本の洋上給油活動が止まった結果、パキスタン海軍の活動が半減したことは事実です。先日、ブット元首相が暗殺されましたが、テロリスト勢力が頭をもたげてきた結果との見方もあります。となると、日本の洋上給油活動の停止が、テロ勢力の台頭を許し、結果的にブット氏暗殺を引き起こしたと、後に振り返られる可能性も否定できません。
 
平和実現のためのアプローチは3つあります。1つ目は公衆衛生学的アプローチ。これはテロの温床となる貧しさや宗教対立をなくす取り組みです。2つ目は予防医学的アプローチ。日本に一番かけている部分ですが、世界のテロ組織の規模や人員、所持する武器の種類や量、ターゲットとしている相手など、平和に対する脅威について調査・研究し、有効な対策を考えることです。この面の情報力が日本にはありません。3つ目は対症療法的アプローチ。国内のテロ対策を世界レベルに引き上げ、同時にテロリストが拠点にしそうな国や地域を安定させることです。
テロの危機に直面する世界の中で、当事者として生きていない日本は、世界的に認められていません。たとえば、05年3月にマドリッドで「列車爆破テロ1周年サミット」がありました。スピーカーは当時の国連事務総長のアナン氏。パネラーはEU(欧州連合)のソラナ安全保障担当上級代表で、中国の副首相やアフガニスタンのカルザイ首相も出席し、経済界からは投資家のジョージ・ソロス氏も参加したような会議でした。ところが日本は現地大使館がサミットの開催すら知らず、日本からの参加は私のグループ3人と、自費で個人的に参加した駐仏公使の4人だけ。ワークショップのスポンサーに名を連ねていたのもノキアやサムソンなど外国企業ばかりで、日本企業の名前はなし。
世界が平和でなければビジネスが成り立たないのですから、企業も自ら平和のために協力すべきです。日本には危機に対するセンスがありません。地理的にも歴史的にも恵まれてきたことによる、DNA的な欠陥とも言えますが、それを自覚して乗り越える努力をしていかねばなりません。
トラベル懇話会でも、メンバーの皆さんが安全と平和について考え、ほかの経済団体とも連携して、政治にも働きかけていってほしいと思います。そうすることで、海外旅行も訪日旅行も増え、旅行業界は繁栄していくことになるはずです。